明日は休みという前の晩。こたつでのんびりとお茶を飲んでいると、向かい側で本を読んでいる人がふと声をかけてきた。
「ねぇイルカ先生、花火しましょうよ」
その言葉に思わず吹き出す。
「この冬の寒い時期にですか?」
外はうっすらとだが雪が積もっている。いや、それはアカデミーの帰り道での話だから、今はどうだろう。もっと積もっているかもしれない。実際に確認してみないとわからない。
どちらにしても、とても花火をするのにふさわしい天候とは思えなかった。
「それがまたオツでいいんじゃないですか!」
たしかねぇ、ここにしまってあるはずですよ〜などと言いながら、ごそごそと押し入れの奥を探り始める。
夏が終わって、余った花火をそのあたりに押し込んでおいたのは覚えている。だからそれは間違いじゃない。きっと程なく見つかるだろう。
案の定、誇らしげに振り向いた上忍の手には花火があった。
「でも、湿気ってるでしょうに」
「そこを火遁でなんとかするのが忍びの腕の見せ所です!」
そこで腕を見せてどうするんだろうなぁ。
そう思いながら、張り切る男をぼんやりと見つめた。
しかし、いいかもしれないと思った。
吐く息まで真っ白い世界で、パチパチと音を立てる花火を想像して楽しくなった。
きっと綺麗だろう、冬の花火は。
「少しだけならつきあってもいいですよ」
「じゃあ、しましょうしましょう」
嬉しそうに笑う恋人は、急かすように腕を引っ張る。
はいはいと仕方なさそうに返事をしながら、自分もすでに花火に心が飛んでいるのだということは、まだ彼には内緒だ。
終わった後に「やっぱり綺麗でしたね」と言えば、彼はまた嬉しそうに笑うだろうか。凍った空気の中に咲く花火のように。