「イルカ先生、好き好き愛してるっ。イルカ先生は?」
「俺もアイシテマスよ」
「うわー、めっちゃ棒読み」
カカシ先生がガックリと肩を落とした。
だが曲がりなりにも『愛してる』と返事できるようになった自分を誉めてもらってもいいくらいだ、と俺は思う。
そんなこと日常的に口に出すなんてとんでもないという考えだった俺が。
毎日愛を囁いてくる上忍を『この人は宇宙人か!』と思っていた俺が。
『愛してる』と言うのは相当勇気の要ること。
かなり頑張っているのだ、これでも。
それが相手に伝わってないわけだけれども。
「イルカ先生、愛が足りないっ!! もっと愛をください! 俺に、俺だけに!」
その言葉がぐさりと胸に突き刺さった。
足りないと言われた。たしかに口に出来ないのは悪いけれど、俺は俺なりに愛情を示してきたつもりだった。
「カカシ先生」
「はい」
「ちょっとここに座ってください」
そう頼むと、いそいそと寄ってきて隣に座ろうとする。
「違います。正面に正座です」
「……もしかして真面目な話ですか?」
「そうです」
もちろん正座をするからにはそういうことだ。
服装の乱れは心の乱れとも言う。きちんと心を伝えるには、ぴしっとした姿勢で内面を表さなくては。
お互いの膝を突き合わせる形で座る。
それからじっと目を見つめて尋ねた。
「俺の愛は足りてないですか」
「え」
「カカシ先生には充分じゃないってことですか。もっと愛情がなければ恋人とはいえませんか。愛が充分じゃない俺と一緒にいるのはもう嫌になりましたか」
もしかしたらそうかもしれない。
カカシ先生だってもっとたくさん『愛してる』と返してくれる恋人の方がいいんだろう。その方がもっとずっと幸せになれるはず。
嫌気がさしたから別れたいと暗に言っているのかもしれない。
そう考えたのだが、カカシ先生は顔面蒼白になって叫んだ。
「ち、違いますっ。イルカ先生のこと、嫌になるわけがありません!」
「そうですか? 愛が足りてないんでしょう?」
カカシ先生本人が足りないと感じているならそれは不幸に違いない。
「いえ、本当は充分感じてます。ただ俺がちゃんと言葉にしてもらいたいだけで……わがまま言いました」
ごめんなさい、と謝られた。
深々と土下座までされてしまった。
謝って欲しかったわけではないけれど、ちょっとほっとした。
よかった。
なかなか口に出せない俺は、カカシ先生の恋人にふさわしくないかもしれないと思うことがある。少し不安だった。
「それならいいんですけど……ほら、俺はこういうことは口ベタだし。本当はカカシ先生には悪いなって思ってるんです」
そう言うと、カカシ先生はぱぁと輝かせた顔をあげた。
「大丈夫ですよ。俺がその分毎日イルカ先生に『愛してる』って言い続けますから」
それはいつものように毎朝毎晩家でも外でもどこでも言うってことなんだろう。
人前でよくそんな恥ずかしいことをできるな、この人。
悪いとは思うけど、やっぱり俺には絶対無理!
「カカシ先生は慎みが欠けてます!」
「えー、そうですかぁ。いつでもどこでもは基本でしょ」
平然としているカカシ先生はやっぱり宇宙人だとしみじみ思った。
でも、足して2で割ったらちょうどいいのかもしれないとも思うのだった。