「カカシ先生」
部屋で洗濯物をたたみながら、イルカ先生が呼んでいる。
「なんですか?」
「カカシ先生のアンダー、ここに穴があいてるから捨てちゃってもいいですか?」
と聞かれた。
穴のあいたアンダーを捨てるのはかまわない。わざわざ確認するほどの事じゃないのに、と思って口を開こうとした瞬間気づいた。
俺のじゃない。
「ちょっと待って。それって……」
イルカ先生のでしょ?
「やっぱり補強して着ます?」
イルカ先生は俺が止めたのを勘違いして解釈したようだ。
しかし、あれは絶対俺のじゃないんだけど。色も形も似ているが買った覚えがないのだから。
とすれば、イルカ先生のものに決まっている。どうして間違えたんだろう?しばらく考え込んだ。
あまりにもいつも見ているものだから、色と形だけが印象に残って、普段自分が着ているものと俺が着ているものとを混同してしまったのかもしれない。
そう考えると、なんだか嬉しかった。
意識しないうちにイルカ先生と俺のものが区別できないくらい混ざり合っているのかと思うと。
存在することがあたりまえな日常。自然で暖かな何か。
それらを自分が手にするなんて、昔は想像したこともなかったけれど。
今は。
「カカシ先生?」
ずっと返事をしないままの俺をいぶかしげに見つめている。
「それ、取っておいてもいいですか?」
「やっぱり捨てるのは良くなかったですか」
表情が少し曇るのを見て、慌てて弁解した。そんな顔をさせたかったわけじゃない。
「いや……記念に取っておきたくて」
そう。捨てるのがもったくなくなった。なんとなく取っておきたくなったんだ。
「何の記念に?」
「うーん。完全なる調和記念?」
「何ですかそれ」
何も知らずに笑うイルカ先生の姿になぜだか満足を覚える。
「いいんでーすよ」
意味がわからなくてもいいんだ。ただ俺がそうしたいだけなんだから。