「イルカ先生」
「なんですか?」
動く度にきゅきゅっと音がしていた赤ペンが止まる。
「なんでもないです」
「用があるんじゃないんですか?」
イルカ先生は不審に思ったのか、ペンを止めただけではなく振り返ってこっちを見ている。
ああ、ごめんね。
ただ呼んでみただけ。
愛しいあなたの名前を。
「なんでもないでーすよ。呼んでみただけー」
正直に申告すると、優しく微笑んでくれた。
「もうちょっとで終わりますから、待っててくださいね。急いで終わらせます」
「いいですよ、無理しなくて。催促した訳じゃないんです」
本当にただ呼んでみたかっただけ。
待つのは苦痛じゃない。ずっとあなたを眺めていられるから平気。
「いいんです。俺が早く終わらせて、あなたをかまってあげたいだけですから」
時々すごい殺し文句をさらっと言う俺の恋人。
眺めているのも好きだけど、かまってもらうのはもっと好きだ。
そのときが来るまでワクワクして待っていよう。待つ時間ですら幸せに思えるのだから。