「ケーキ作りたい! っていうか、作って!」
もうすぐクリスマス。
勢い込んで家へ飛び込んできた恋人は、鼓膜が破けそうなくらいの大声で叫んだ。
たぶん誰かが言ったんだろう、クリスマスは断然恋人の手作りケーキだよな!とかなんとか。
そういうのにはすぐのせられるんだから。
甘いものなんて好きじゃないくせに。
評判の店でワンホール買ってきたって、一口食べてすぐに手をつけずに余らせるくせに。
結局それを胃の中へ始末するのは俺なんだぞ、と言いたい。
「ねぇ、イルカ先生。ケーキケーキ、ケーキ作ってくださいよぅ」
「ケーキなんて買ってきた方が美味しいですって」
「手作りがいいんです!」
なにやら熱い意気込みが感じられる。
甘いかなと思いつつ、こんな風に望まれるとできれば叶えてあげたいとは思ってしまう。しかしそれには問題があった。
「って言ったって、うちにオーブンなんてないですよ」
「オーブン……」
相手はそれがないと作れないことに衝撃を受けている。
そうだよなぁ。ケーキの作り方なんて知らない人だし。
しかし、写輪眼のカカシは諦めない人だった。
「じゃあ、そのオーブンとやらを買ってきましょうよ!」
呆然としていた顔はまた期待に輝いている。
「嫌ですよ」
「え」
素っ気なく言うと表情が固まった。
「この狭い台所のどこに置くんですか。たまにしか使わないものを買うなんて無駄遣いです」
普段から無駄遣いはいけない、ときつく言い聞かせてあったので、無駄と主張されたオーブンはこの家にはやってこないのだと理解したようだ。
オーブンがない、つまりどう足掻いてもケーキは作ってもらえない。
その事実に目の前の恋人は肩を落とした。それはもうガックリと。
なにもケーキがなくたって困りはしないだろうに。
けれど、もしかして彼にとっては幸せの象徴なのかもしれない。甘いケーキと親しい人と過ごすクリスマス行事。今まで任務任務で縁遠かったと言っていたから。
そう思えば、しょんぼりする姿があまりにも可哀想に思えてきて、俺はしかたなく折れた。
「炊飯器で作るヤツだったらなんとか……」
「マジですか! それ、それでいきましょう!」
わーわー騒いでいる、イイ歳をした上忍が。
だいたい炊飯器で作るケーキというものを理解しているかどうかも怪しい。ケーキというよりは蒸しパンに近い感じなんだが。
でも喜んでいるからいいか。
あまりケーキなど食べない人だから、これがケーキだと言い張っておけばきっと大丈夫。
「言っておきますけど、美味しいかどうかなんて知りませんからね?」
「いいんです、いいんです。『イルカ先生が作ってくれる』ってところがポイントなんですから!」
そうかもしれない。
味なんてあまり関係ないのかもしれない。恋人と共に過ごす時間に比べれば些細なことだ。
でも、できれば美味しいものを作ってあげたいと思うのは、俺がこの子供のような上忍に甘いからなんだろうか。
いやきっと、世の中の人はみんなそう思うんだろう。大切な人にはよりイイものを与えてあげたいと。
「どうせだったら一緒に作りましょうよ。その方が楽しいですよ?」
そう言うと、嬉しそうに目を細めて笑った。
ただ一方的にあげるだけじゃなくて、一緒に作り上げるのは最初から最後の時間まで楽しいだろう。
最初の材料を買いに行くワクワク感から、最後の一口まで食べきる満足感まで。
全部を楽しもう。
とりあえず明日炊飯器でできるケーキのレシピを誰かから入手しよう。できるだけ美味しいものを。
そう思った。
Merry Christmas!!