俺がどうしようもなく好きでたまらないイルカ先生を飲みに誘おうとしたら、なぜかアスマと紅がついてきた。
なんだか嫌な予感。
俺が片想い中なのを二人は知っているのだが。奴らは俺の恋が成就するのに協力する気は欠片もなく、どうも邪魔したがってる節がある。というより、からかって面白がってるのかもしれない。どちらにせよ要注意だ。
飲みに行って、そこそこ楽しく話が弾み出した頃。
「俺、実はメンクイなんですよね」
ほろ酔い加減になったイルカ先生が、恥ずかしそうに言った。
「そうなんですか〜」
もしかしたら片想い中の俺に巡ってきたチャンスかもしれない。
自慢ではないが、父親に瓜二つと言われる面はけっこう男前だと思っている。素顔をイルカ先生に見せたら好きになってもらえるんじゃないか、という期待がむくむくと湧き上がる。
これはぜひ顔を見てもらわなくては、と思う。
「ほお、イルカはメンクイか。なるほどなるほど」
「イルカ先生ったら、そうだったのねぇ」
アスマと紅が口を挟んできた。
どこか含みがある口調なのが気になる。何か企んでいるのだろう。警戒したが、今この場でどうこうするつもりはないらしい。
結局その日は何事もなく飲み会は終わり、別れた。
そんなことがあった数日後。
イルカ先生を俺の自宅に誘うことに成功した。イルカ先生が捜している巻物を持っているからうちへ来ませんかと言うと、あっさり頷いてもらえた。
イルカ先生はもうちょっと警戒した方がいいんじゃないかと心配になったが、俺の計画のためには都合が良い。
『素顔を見せてイルカ先生の興味を惹いて、あわよくば好きになってもらおう』計画。
部屋に上がってもらってから、まず額あてを外そうと手をかける。
「カカシ先生! 額あてを外したら駄目です!!」
えええ。制止されてしまった。
外さないとここに呼んだ意味がないのだけど。早くも計画に亀裂が!
「どうしてですか」
暗部の面のように見たらいけないものだと思い込んでいるんだろうか。もしそうなら誤解を解かなければと思った。
が、イルカ先生は真剣な顔をしてとんでもないことを言った。
「外したら写輪眼が飛び出しちゃうじゃないですかっ」
「は?」
「アスマ先生から聞いたんです。人からもらった写輪眼だから、押さえていないと眼球が飛び出てしまうって!」
イルカ先生……写輪眼をいったい何だと思ってるんですか。むしろ俺を何だと思ってますか。
騙す方も騙す方だが、騙される方も騙される方だ。
「……それはウソです」
「ええっ。そうだったんですか!」
素直すぎるというのも考えものだ。そんな嘘、イルカ先生以外誰が信じるんだ。ナルトだって笑うだろう。
大丈夫だと何度も言って、ようやく信じてもらえた。
でも、額あてを取る時にイルカ先生の手が緊張していたから、眼球が飛び出したら受け止めるつもりだったかもしれない。本当に信じやすいんだから、イルカ先生……。
次は口布を、と手をかけるとまたしても制止される。
「待ってください。せめてカーテン閉めてください! 誰かに見られたらどうするんですか!」
俺の素顔を誰にも見せたくないと思ってくれてるのかな。
そうだったら嬉しい。
と思ったのが間違いだった。
イルカ先生は目をぎゅっと閉じたまま、立ち尽くしている。ぜんぜんこっちを見てくれない。
「イルカ先生? どうして目をつぶってるんですか?」
「だって。カカシ先生の素顔を見た人は、石になるって紅先生が!」
俺をいったい何だと以下略。
くそっ。紅のやつ、なに嘘を語ってやがる。
「ごめんなさい! 俺、カカシ先生の素顔を見る勇気がありません」
顔を覆ったまま、イルカ先生は走り去ってしまった。
「そんなぁ」
結局誤解を解くまで相当の時間がかかり、それがトラウマになったのか、恋人になった今でもあまり素顔を見ようとしないイルカ先生だった。