「ねぇ、イルカ先生。こんなに混んでるんだから止めましょうよ」
と袖を引っ張られる。
「何言ってるんですか! ここに遊びに来てこれに乗らないなんて冗談でしょう」
そっけない返事に相手はがくりと項垂れた。
「あっ、でもほら! 『ここまで身長がない人は乗れません』だって。俺、届いてないから無理ですよ!」
そんなことを精一杯主張している。
がしかし。
「……カカシ先生。しゃがんでたら届かないのはあたりまえでしょう」
「いいんです。これが今の俺の身長なんです!」
わざわざ髪の毛まで押さえ、身長制限線まで届かないよう縮こまっている。
まさかそこまで嫌だとは思わなかった。
知り合いから貰ったタダ券で思いきり遊び倒そうと、今日は張り切っていたのに。
「どうしてそんなにジェットコースターが嫌いなんですか? これくらいのスピード、上忍にはお手のものでしょうに」
「だって悪趣味ですよ、こんなの! 命をかけた真剣勝負なら俺だって……お遊びでわざわざこんな状況を作り出してまでやることじゃないでしょー?」
任務なら可能というのなら、要は精神的な問題なのだろう。
その台詞にちょっとムカついた。悪かったな、お遊びでしかこんな状況にならない中忍で。
「せっかくだから乗りますよ」
「わっ、ヤダヤダ」
スーパーの売り場で駄々を捏ねる子供そのもの。
列の途中なんだから、ここで留まっていても迷惑でしかない。腕を掴むと嫌々と首を振るので、しゃがみ込んだままの身体をずるずると引っ張って移動するしかなかった。
「イ、イルカ先生。あとどの位?」
どの位で順番が回ってくるのかと、そわそわと落ち尽きなく何度も何度も聞いてくる。
「あともう少しですかねぇ」
「うう〜」
もはや今の俺は、目の前に迫ってくる順番よりも、隣でびくびく怯える人を観察する方が楽しくてしょうがなかった。
これを乗り終わったらまた並ぼうと考えているのは、今はまだ内緒だ。
◇SさんとAさんへこっそり捧げます。