イルカ先生はめったなことでは『好き』とは言ってくれない。
その言葉を耳にする機会は少なすぎた。
俺は毎日、それこそほとんどそれしか言ってないんじゃないかと思えるくらい好き好き言っているのに。
そりゃあ、イルカ先生が俺のことを嫌いだと疑っているわけではないけれど、好きと言えば好きと返してもらいたいのは人情というもので。
毎回俺が言うたびに好きと返して欲しいとまでは言わない。でもたまには、と望んでしまうのは仕方のないことだろう。
そんなわけで、今日は意を決してお願いしてみることにした。
「イ、イルカ先生!」
「カカシ先生、どうしたんですか?」
振り向いた黒い瞳にじっと見つめられると、それだけで決心が挫けそうになるけれど、今日の俺は一味違う……はず。
「あの!嘘でもいいんです。俺のことを『好き』って言ってください!」
「嘘でいいんですか?カカシ先生はそれで満足できるんですか?」
「う」
さすがイルカ先生、痛いところをつく。
「ホントのホントは嘘じゃ嫌ですけど……」
でも、好きって言ってもらえるのは嬉しいから、ちょこっとぐらい嘘が混じっていてもいいかなぁと思う。
人生に妥協は必要だと、どこかの偉い人も言っていた。
「どうしても聞きたい気分の時もあるんです。駄目ですか?」
「嫌です」
きっぱりと断られた。ショックだ。
それなのにイルカ先生は笑って手招きをする。呼ばれるままに近づくと、耳元のすぐ側に唇が寄せられた。
『 』
ひっそりと囁かれた言葉は、ずっと望んでいたものだった。
「俺は嘘はつきませんよ。嘘つきは嫌いですから」
イルカ先生は首筋まで赤くなっていた。
「嘘なんかより、ずっとずっといいです!」
感激のあまり大きな声でそう言うと、イルカ先生は俯いたまま『それはよかった』と呟いた。
◇Sさんへ感謝を込めて捧げます。