ある任務の待機中。
息を潜め気配を絶ちながらも、いつもの慣れでたいした緊張感はない。むしろ静かすぎて余計なことまでつらつら考えてしまいそうな月夜だった。
頭に浮かぶのはあの人のこと。
ナルトの元担任でアカデミーの教師で、時たま任務の受付もやっているあの人。
黒い髪をふさふさと揺らし、道端で偶然会っただけでよく知りもしない俺にも笑顔を絶やさず話しかけてくる人。
その人に恋をしてしまった。いつの間に恋に落ちていた。
今日は七夕。一年に一度しか会えない恋人たちの日らしい。
仕事を放り出してイチャついていた二人は神の怒りを買ったという。
昔なら馬鹿な二人だとあざ笑っただろう。だが、恋人になれただけ羨ましいすぎると今は思う。
だって今の俺は好きだという意思表示さえ相手にしていない。恋をしたのは初めてで、どうしていいかすらわからなかったから。勇気がなかった。
でも。もしもこの任務が失敗して、明日という日を迎えずに俺の人生が終わってしまったらどうなるんだろう。イルカ先生は俺に好かれていたことすら知らず、記憶の端にも残らず俺という存在は忘れ去られてしまうに決まっている。
そう考えた途端に焦り出す。
困る。それは非常に困る。明日が来なければ告白も出来ない。
もちろんこの程度の任務で死ぬわけはない。そんなことはありえない。
だからこんな任務はさっさと終わらせるに限る。ちゃんと仕事をこなしておけば神だって恋する者を応援してくれるに違いない。超特急で終わらせて里に帰って告白するんだ、絶対に。必ず好きだと伝えてみせる。
気合いを籠めると、チャクラが練り上げられて写輪眼が回り始めそうになった。
おっと、自重自重。
まだ任務中だった。
「先輩? 何かありました?」
生真面目な後輩が心配そうに声を掛けてくる。
もうすぐ始まるであろう任務が、失敗に終わることを心配しているんだろう。
そうだ。失敗されては俺も困るのだ。必ず成功させなくてはいけない、今日中に。
「いーや、なんにもないよ。明日が来なけりゃやりたいこともできないってだけのこと」
「へぇ。やりたいことがあるって先輩にしたら珍しいですね」
「そうかな」
「そうですよ。明日は雪でも降りますかね?」
「今は夏だよ?」
「夏だからですよ」
ありえないことだから、とまで言われた。
どんな人間だと思われているんだと不機嫌になりそうになったところへ、敵に動きがあった。
「さーて、張り切りますか」
完璧なまでに完遂して、告白の景気づけにしようじゃないか。
張り切る俺を不思議そうに見つめる後輩に、発破をかけてから行動を開始するのだった。