私は春野サクラ。
今、木ノ葉里立病院にいる。
綱手師匠に習っているため、木ノ葉の忍者達が任務で負傷すれば運び込まれるこの病院で働くことも多い。
医療班が常時待機しているから出動もあるし、救命救急で夜を徹して作業にあたるということもある。
知り合いも多く運ばれてくる。
そんな時でも忍者は常に冷静に。状況を判断して的確な決断を下すのが仕事だ。
今日運ばれてきたのはなんとカカシ先生だった。
ストレッチャーにぐったりと横たわる姿に、思わず駆け寄るはずの足が止まってしまう。
意識が混濁している時はまず話しかけること。
誰かが基本中の基本を実行しているのをぼんやりと見ていた。
「わかりますか? ここは病院です。大丈夫ですよ。わかりますか?」
「う……」
「ご自分の名前を言えますか」
「はたけ……カカシ」
「生まれた日を言ってください!」
生年月日を言ってもらうのはよくやる方法だ。
本人かどうか意識がしっかりしているか記憶に混乱はないか等を確認するために。
「……5月、26日」
カルテにさらさらと日付が書き留められた。
けれど、私は知っている。
それはカカシ先生の誕生日じゃないってこと。
驚いた。
まさか自分の生まれた日もわからないくらい意識が混濁しているのかと思って。
その日付は違います!と言おうとして、自分の横に師匠が立っていることにようやく気づいた。
「ふぅん。カカシも意識がしっかりしてるみたいだし、これなら心配ないみたいだね」
「そんな!」
まさか師匠は知らないのだろうか。間違っていることを。
「あ、あれは間違ってます!」
焦って伝えようとすると上手くいかず、伝えきれない自分の未熟さに歯噛みしそうになった。
がしかし、師匠は平然と答えた。
「カカシがイルカの誕生日を答えるのはいつものことだろ」
「え」
「あれ以外の答えだと怪しい」
「あの……?」
「9月15日なんて答えた日にゃあ、確実に偽者だな」
にやりと笑う剛胆な女火影に、気が遠くなりかけた。
それって、それってぇ!
っていうか、5月26日がイルカ先生の誕生日だってことまで何で知ってるのー!
心の叫びが届いたのか、師匠はあっさりと言った。
「だってお前。忍者の健康・生活管理は医者の勤めだよ。カカシクラスになれば私のところにも情報は回ってくる」
「……そうなんですか」
そう答えるのが精一杯だった。
そうか。火影さままで知ってる情報なんだ。黙認なんだ。いやむしろ公認?
この後、心配でかけつけてくるだろうイルカ先生にこれは言えない。
常識の固まりみたいな先生に、火影さまにつきあってること知られてますよ、なんて言えない。
そんなこと言ったら卒倒しそう。
あくまで友人のふりをしているだろうに。その努力を無に帰すなんてこと!
だからこれは言ってはいけないことなのだ。たとえ知っていたとしても。
守秘義務ってつらい。
……なんかちょっと違う気もしたけど、衝撃を受けた後ではもうどうでもいい。
「またチャクラ切れかい。まったく体力なし男だね!」
師匠の暴言もまったく気にならなかった。
たとえそれがカカシ先生本人の耳に届いていたとしても。自業自得だから私には関係ない。
それよりもこれから自分はどう行動していくのかの方がよっぽど大事だ。
5月26日はイルカ先生の誕生日だってこと。
カカシ先生の本人確認はイルカ先生の誕生日を答えるのが正解だってこと。
イルカ先生には素知らぬ顔をすること。
これが今日私が覚えたことだ。