【58:勝手にすれば〜】

任務の待機時間。カカシと一緒になった。
木の上なので周りに誰も居ない。それほど切羽詰まった任務ではないのでのんびりと待っていると、カカシが口を開いた。
「俺さ、最近悩んでるんだよね」
「ほぉ」
カカシは意外と細かいことで悩んだりする。
よくしょうもないことでウダウダ言ってるのを聞くと、張り倒したくなるのだが。まあ、そこは長年のつきあいでなんとか我慢している。
今回もまたどうでもいいことだろうと高を括って、煙草に火を点けた。
が、カカシはなかなか話の続きを言おうとしない。焦れて促すと、渋々口を開いた。というか、結局そういう仕方ないという姿を見せようとしているだけで、本気で話すのを嫌がってるわけじゃない。
が、言い出した内容はとんでもなかった。
「イルカ先生って俺に気があるんじゃないかって」
「はぁ!?」
思わず煙草を落としちまったじゃねぇか。
イルカ先生って、あのイルカがか?
だってあいつはどう見ても男だろ?いやまあ、人の趣味に口を出す気は毛頭無いが。
「この前アカデミーの元担任と交流しよう!とか言って、みんなで飲みに行っただろう? あの時チラチラ見られてたんだよね」
「…………」
それはただ単に、お前が口布を取らないで食べてたから気になって見てただけだろう。何言ってるんだ、こいつ。そういう風に注目されるのは慣れているだろうに、何を今さら。
「道端で会ったら必ず挨拶されるし」
それは普通。まったくもって普通の行為だ。
礼儀正しいイルカにしてみれば、顔見知りを見かけたら無視して通り過ぎるわけにはいかんだろう。
「よく目が合うし」
それは、なぜかお前がイルカを事あるごとにガン見してるから、視線に気付いたイルカが見ちゃうのではあるまいか。
「一緒に食事にでも行きませんかって誘われるし」
それってアレなんじゃねぇ?
ナルトのことが聞きたいとか、そういうやつだろ。俺だってよく誘われるぜ。
「どう考えてもイルカ先生は俺に気があるよね! 間違いないよ」
「いや、別にそうは思わねぇけどな」
「何言ってるんだ、アスマ!」
何って、客観的な意見じゃないか。至極もっともな意見だと誰もが言ってくれるだろう。
「絶対そうだって!この前なんかクリスマスの予定なんか聞かれたりして。あれってやっぱ、一緒に過ごしたいってことだよね」
そうか?話題に困ったら普通に聞くだろう、世間的イベントに何をするかぐらい。
「付き合ってる人いるんですか?とか聞かれて。俺は今、恋人居ないんです、とかアピールされたし!」
いや。単に話題の一環であって、なんのアピールでもないと俺は思うぞ。
お前の勘違いには呆れてものも言えん。
「俺さぁ。里に帰ったらイルカ先生を飲みに誘おうかなぁと思ってるんだよね」
「……へぇ」
なんでだよ、とは言わなかった。面倒くせぇから。
が、その沈黙をカカシはなんと解釈したのか、勝手に焦りだした。
「だってほら、いつも誘ってもらってばっかで悪いし。俺は別にイルカ先生のことなんとも思ってないけど、やっぱ礼儀でしょ、そういうの。だから!」
「勝手にすれば」
馬鹿らしい。
何がなんとも思ってないだ。バレバレだっつーの。
好きなくせに相手にせいにしようってのが姑息だ。
勝手に勘違いしてろ。そして飲みに誘って断られればいい。
そこまで考えて、気付いた。そのうち嫌でも己の勘違いに気がついて、また五月蠅くなるだろう。そのことを想像しただけで、どうしようもなく憂鬱になるのだった。


[2009.12.12]