「あ」
カカシが腕を伸ばして棚の上の物を取ろうとした瞬間、棚の前に立っていたイルカの髪が服に引っかかった。
忍服の留め具に引っかかっているポニーテールの先っぽを、イルカが無理に引っ張って取ろうとする。カカシはとりあえずイルカのすることを眺めているだけで、手は出してこない。
しかし、無理をしたのが祟って、ますます髪は絡まり収拾がつかなくなった。
「これだけこんがらがってたら、取るのは無理ですね」
イルカは溜め息をついてクナイを取り出した。
「え?イルカ先生、まさか……」
カカシは半信半疑の表情で尋ねる。
「髪の毛を切った方が早いでしょう?ちょっと待っててください」
「わーわー!駄目ですよ!」
「でも……」
「駄目ですって!切るなんて、恋人であるこの俺が許しませんよ!」
これでもかというくらい真剣なカカシ。
イルカはといえば、ちょっと髪の毛を切るぐらいで何怒ってるんだろう、と思っていた。どうせ伸びてくるものなのに変な人、と。
「こういうときは俺に任せなさい。氷解放離の術」
カカシが印を組むと、絡まる髪はするりと解けた。
「なんだ、そんな便利な術があるなら早く使ってくださいよ」
イルカが不満げに言うと、カカシは頬を赤らめてもじもじと答えた。
「好きな人とは少しでも長く繋がっていたいという男心をわかってください」
「は?」
「あのまま髪が解けなかったら、しばらく一緒にいられたのに。イルカ先生のいけず〜」
そんなアホなことを言い出すカカシに、イルカは絶句した。
「男心っていうか、それは……」
それはアホでしょう、とは言い出せないまま。はぁーっと溜息をつく。
何が嫌って、そんなことを言う恋人も恋人だが、そんな恋人を嫌いにならない自分も充分アホだということが嫌だ。
悲しいのか嬉しいのかわからない複雑怪奇な自分の心の内を持て余しながら、イルカはカカシにチョップをお見舞いしたのだった。