昼間はあれほど輝いて存在を主張していた太陽も、夕暮れ時になれば徐々に闇に紛れて萎んでいく。そんな空を家で横になりながら眺めていた。
イルカ先生は台所で夕飯の準備中。
申し訳ないなと思うが、手伝っても手間を増やすばかりの俺は、あまり台所に入れてもらえないのだ。
が、一人でぼんやりするのは寂しい。もっとかまって欲しい。
そんなことを考えていたら、イルカ先生に呼ばれた。
「カカシ先生。ちょっとあれとってー!!」
どうやら手が離せない状況らしい。
イルカ先生が俺の助けを求めている。この状況はまさに俺が望んでいた展開だ。
俺に任せてください!
台所へすっ飛んでいった。
「あれって何ですか?」
「コーラが冷蔵庫に入ってるんで」
取って欲しいと視線で訴えてくる。
拍子抜けする用事だったが、それでも助けを求められていることに変わりはない。
「へぇ、意外。イルカ先生でもコーラなんて飲むんだ」
「意外ですか?」
「なんとなく健康にいいお茶とか選びそうだから」
「そうでもないですよ? でもまあ、別にコーラは飲む訳じゃないんですけどね」
「飲まないの?」
飲まないのにどうして今取り出すんだろう。
「ええ。煮るんです、肉を」
「煮る?」
「コーラ煮です」
「えええ、コーラで煮るの!?」
「知りません?」
「知りません!」
だってコーラ。
あれは炭酸入りの甘ったるい飲み物だろう? それで肉を煮てどうするの?
お菓子? お菓子なの!?
夕飯の支度だと思っていたけど違っていたのか。
苦手な甘いものを食べなくてはいけないなんて! 天ぷらよりはマシだが、それでも正直困る。イルカ先生が作ってくれたものを残したくはないし、と頭の中がぐるぐるし始めた。
呆然と立ち尽くしていると、イルカ先生が吹き出した。
俺はそんなに情けない顔をしていただろうか。
「ちゃんとした料理ですよ、コーラ煮は」
「そうなんですか?」
「炭酸でお肉がやわらかくなるんです。まあ、味は甘めですけどちゃんと醤油ベースですよ」
「へええ」
初めて知った。
こういう日常のことは断然イルカ先生の方が詳しい。教えてもらうことばかりだ。
けれど、それは不快なことではなく、くすぐったいような幸せを感じる。
「本当はコトコト煮込むのがいいんだけど、今日は急いでるので圧力鍋で」
イルカ先生はにこりと笑い、鳥の手羽先を鍋に入れていく。
あとは完成を待つばかりだと言う。
30分も経った頃。
できあがってきたのは飴色の肉の塊。箸で突くとほろりと崩れる。
「あ、おいしー」
「でしょう?」
驚いた。
美味しいと思えた。柔らかいのはもちろんのこと、甘いは甘いが上品な甘さのように思う。
用意された鶏肉はすべて平らげた。
今まで想像したこともなかったことに驚いた。イルカ先生が教えてくれなかったら出会わなかったかもしれない料理。
そう考えると、このコーラ煮も幸せの味のように思えるのだった。