【手の中にある月の光のように】


「俺、髪の毛黒く染めようかな〜」
ある休日。縁側でのんびり過ごしていると、カカシがふと言いだした言葉。
カカシはごろりと横になり、イルカの膝の上に頭を乗せているため、陽に透けた髪がイルカの目線のすぐ前にあった。
「え?どうしてですか」
「たまに任務のときジャマなんですよね。光が反射するとマズいときがあって…そのたびに隠すでしょ」
「ああ、そうですね。目立ちますからね。…でも、もったいないなぁ。すごく綺麗な銀色なのに」
そう言ってイルカはカカシの頭を名残惜しそうに撫でた。
「やっぱりや〜めた」
「え?」
「染めるの止めます!」
「どうしてですか?」
「だって染めなかったら、またこんな風にイルカ先生に撫でてもらえるかもしれないでしょ?」
途端にイルカは頬を赤らめて、手を引っ込めようとした。
カカシがその手をすばやく掴んで止める。
「もっと撫でて欲しいなぁ。ねぇ、イルカ先生?」
一見巫山戯ているかのように笑っているが、いやに真剣に強請るカカシにイルカは苦笑しつつ、やわらかく撫で続けた。
「子供みたいですねぇ」
「そうですか?」
「ええ。ホントに大きい子供ですよ」
「お母さんは大変ですね」
「誰がお母さんですかっ!」
「嘘です。お母さんとはこんなことしませんし」
言うやいなや起き上がってきて、唇を近づける。
ちゅ。
「もう。なにするんですか」
「愛の証です」
機嫌良く宣言して、ぎゅーと抱きつく。
イルカは軽くため息をつき、諦めてカカシが抱きつくのに任せた。
心の中では『これくらいで髪が黒くならないなら安いもんだ』と思いながら。
本当の本当にこの銀色は綺麗だから。
ずっとこのままがいい。
そう思い、微笑んだ。


END
2003.06.21


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