【萌え出づる】


「なぁなぁ、みんなで団子食って帰ろうってばよ!」
ナルトが任務の帰りに見つけた甘味屋の前で立ち止まって言った。
店の前に出ている看板に『花見団子』の文字を見て、急に食べたくなったらしい。
「えー、でもー」
サクラは思いきり賛成したいのを上忍並みの自制心で我慢して、サスケを窺っている。サスケが甘いものが苦手なことを知っているからだろう。
当のサスケはそんな気を遣われているのも露知らず、断ろうとしているのがありありとわかる表情だ。
「ま。みんなで団子もたまにはいいもんだ」
俺は有無を言わせずサスケを促して、四人全員で店に入った。
「おばちゃん。花見団子、四人前お願いー」
「はいよ」
注文して出てくるのを待つ間、サクラが少し首を傾げながら質問してきた。
「そういえば、カカシ先生って甘いもの苦手じゃなかったっけ?」
「確かに」
「うんうん。絶対そうだってばよ」
サスケもナルトもそれに同意し、思いきり頷いている。
「まぁね。でも花見団子を食べるのは好きだよ。あんまり甘くないし」
「ああ、そうですね。アンコとかじゃないから」
そういうやりとりをしていると、団子とお茶がお盆に乗っかって出てきた。
桜色・白・草色の三色団子。それを特に春に食べる時に花見団子と称すると、この前知ったばかり。


つい先日、一緒に住んでいる恋人が団子を手土産に帰ってきた。前の依頼人がお礼に、と受付へ持ってきたらしい。
「団子ですかぁ。俺、甘いものはちょっと……。イルカ先生が全部食べちゃっていいですよ」
「でもこんなにたくさんあるし、そんなに甘くないから少しだけでも」
にこにこと勧められると、笑顔に弱い俺はどうにも断れない。
「じゃあ少しだけ」
と、一本を手にとって口に運んだ。
「ああ、ホントだ。そんなに甘くないですね」
もっと砂糖をたっぷり使ったものを想像していたので、意外にあっさりしたほんのりと甘い食べ物に驚いた。たしかに考えてみれば、みたらし団子だって団子自体が甘いわけではないだろう。
「よかった!」
笑み崩れる表情につい見惚れてしまった。
この笑顔と苦手なものを秤にかけると、断然笑顔の方が重いに決まっているから、こんな団子を食うぐらいたいしたことはない。気分が良くなりながら団子にかぶりついた。
食べながら、ふと思ったことを口にする。
「そういえば、なんで三色なんですかね。たいてい見かけるのはこのピンクと白と緑色じゃありませんか?他の色はあんまり見たことないなぁ」
「ああ、それはですね」
ちょっとした疑問を口にすると、すぐ教師の顔になって真剣に答えようとする姿も好きだ。本当はどんな姿だろうと好きだけれども。
「一番上は春に咲く花、真ん中は残雪、一番下は雪解けを待つ若草を表しているんです。だから色の順番も決まっているんですよ」
「へぇ」
それは知らなかった。ただの見栄えの問題かと思っていた。
今まで腹を満たすか否かしか考えていなかった自分だから、この色に意味があるということに興味もなかった。感心しながら三色の団子を弄んだ。
「本当は、ピンクは桜のつぼみ、白は花の色、緑は葉っぱと、桜が季節によって移り変わっていく様子を模したものという説もありますが、俺は最初の方が好きです。なんだか俺たち忍びみたいでしょう?」
春を待ち望み、雪の下で耐え忍ぶ草のように。
そう考えると、この他愛のない団子も好きになれそうな気がした。
「そうですね」
と答えると、さらに嬉しそうな笑顔が返ってくる。
「あ、そうだ!ちょっと待っててください」
何を思いついたのか急に立ち上がり、いつもアカデミーに通勤する時に持って出る鞄の中をごそごそと探っている。
大人しく待ちながら眺めていると、戻ってきてハイと小さな紙片を手渡された。
淡い紅色のそれは、最初何かはわからなかった。
「授業で押し花のしおりを作ったんです。どうぞ使ってください」
よく見れば、それは桜の押し花だった。
「ほら、カカシ先生はよく本を読んでるでしょ?きっとしおりは便利ですよ」
無邪気な笑顔になんだか申し訳なく思う。
こんな綺麗なしおりを挟むような高尚な本じゃなくてごめんなさい、と謝りたかったけれど、今それを言う勇気はなかった。
「じゃあ、ありがたく頂きますね」
とりあえずはそう答え、これは胸元の裏ポケットにいつも入れて歩こうと心に決めていた。
いつも心臓の上に春を抱く。
それが愛しい人の手作りならば、なおさら心弾むというものだ 。


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