【やわらかな夜の眠り】

お互いの抱える孤独を癒し合えるようなカカイル(十五万打アンケート)


夜あまりよく眠れないのは、いつものことだ。不眠症と言ってもいい。
明け方になってようやく眠りにつくため、午前中の任務に遅刻してしまうのもまたいつものことだった。
神経症からくる不眠らしく、暗部になってからずっとそうだったから、あまり気にしていない。
一人であれば本を読んだりして時間を潰したりするのだけれども、今はベッドに横たわって闇の中まんじりともしないで夜を明かしていた。
隣眠る恋人の寝顔を眺めているだけで、長くてつまらない夜も楽しいひとときに変わるというものだ。
しかし、愛しい思いと共に、自分は起きていて相手は眠っているということにちょっとした不満が募る。ちょっとした悪戯心で鼻をつまんだ。
「んん……カカシ先生?」
息苦しさからか覚醒してしまい、まだよく見えない目をこすっている。
せっかく気持ちよく寝ていたようなのに申し訳ないな、と思う。でも、ついしてしまうんだ。だって俺は眠れないから、いつだって。
「大丈夫ですよ」
ゆっくりと起きあがり、腕が伸びてきてぽんぽんと背中をあやされた。
何が大丈夫なんだかよくわからないことを言われる。
寝ぼけているだけかもしれない言葉に深い意味などあるのだろうか。
けれど俺にはちゃんと意味は通じていた。
それは何を根拠にと苦笑もするのに、でもなぜか納得できて、魔法のように眠りのカーテンが降りてくる気がする。
そうか。大丈夫なのか。大丈夫なんだ。
その言葉は雨が染み込むように俺の中に降ってきて、すべてを癒した。
俺はいつの間にか眠っていた。



朝、目を覚ますと隣にはもう誰も寝ていなかった。早起きな人だ。
昨夜のおかげで今日は珍しく寝起きがよかった。
「おはよーございます」
台所へ顔を出すと、
「おはようございます、カカシ先生」
と、いつものように爽やかな笑顔で挨拶をされた。
「今朝は早いですね。よく眠れませんでしたか?」
「いや、逆です。よく眠れたからいい時間で目が覚めました」
「そうですか?」
ちょっとだけ意外そうに目を見開くと、それでもそれはいいことだと言うように笑う。
「昨日、起こしちゃったの覚えてます?」
「んー、あー、なんとなく」
歯切れの悪さに、やっぱり寝ぼけていたのかと可笑しく思う。
でもまあ、たとえ無意識であっても俺のことを案じてくれる気持ちに変わりはないのだ。むしろ無意識である方がどうしようもなく嬉しいと感じる。心から思ってくれているのだから。
そう考えていた時、イルカ先生が口を開いた。
「俺ね。夜、ふっと目を覚ました時にあなたが側にいると安心します」
カカシ先生もそうだといいなぁ、などと言う。
「……俺もですよ」
囁くような小さい声で答えた。
もちろん、そうだ。
闇の中で不安なのは俺だけじゃなくて。きっと誰もが感じることなのだ。
けれど、あなたが側にいてくれさえすれば、いつだってやわらかな眠りが訪れるだろう。
今夜から眠れない夜は訪れない。きっと。


END
2004.09.18


●Menu●