【夢の島】


『もし無人島にひとつだけ持っていけるとしたら何を持っていきますか。』


「何それ?」
「っていう質問が今流行ってるんだってよ」
たるそうに煙草の煙を吐き出しながらアスマがそう言った。
「へえ。無人島ねぇ?」
こういった場合、どうして事前に持っていけるのかとか、どうして一つだけは許されるのかとか、それは追求してはいけないお約束なのだ。
「そういうお前は何持ってくんだよ」
「俺はもちろんコレだ」
そう言って、持っていた煙草をヒラヒラと振った。
「あははー。なるほど」
納得。
その答えはアスマらしくて笑った。
なるほど、その人物の個性がでるものなんだなぁ。
「私は化粧品かな。お肌が荒れちゃう」
「見る人間がいないのに手入れしてどーすんだ」
「あら。心意気の問題よ」
アスマが首を傾げて文句を言い、紅に訳の分からない理由を返されていた。
ひとつだけ持っていくもの。
要するにそれは、生きていく上でどうしても必要なものってことだろ?
それなら迷うことはない。もう決まっている。
「で、お前は?」
「俺はもちろん『イルカ先生』だ!」
「可愛い恋人かぁ。それもアリね」
「まあ、らしいっちゃらしい答えだな」
周りが茶々を入れようがどうだっていい。
「だってさ、イルカ先生がいれば後は何もいらないもん」
もしも一つだけ持っていくならイルカ先生がいい。
それがあれば、どんな僻地だろうと平気。
きっとどこに行っても幸せだろう。
その様を想像して自然と頬がゆるんだ。
「惚気かよ」
「こうなったらイルカ先生の答えも聞きたいわねぇ」
「そうだなぁ」
「えっ」
ニヤニヤと笑う悪友共に少し慌てた。
なんだか怪しい雲行きになってきている。
そりゃあ、答えは聞きたい気持ちはいっぱいあるが、聞きたくない気持ちはそれ以上なのだ。
「ま、待てよ。イルカ先生は忙しいんだから、そんなくだらない質問で時間をとるなんて……」
「お?どうした、急に」
「ほら、あれよ。『カカシ先生』って答えてもらえなかったら困るじゃない」
「ああ、なるほど」
「うわーん。はっきり言うなぁー!!」
「ははははは」
悪友だけあって容赦がない。
そうだよ!
だって、どうでもいい物体を一番に上げられたら嫌じゃないか。
イルカ先生の性格からいって、その確率は限りなく高い。
でも、そこはそれ恋人同士ということで、淡い期待がないでもない。
俺の名前をあげてくれたら天にも昇る気持ちだろうなぁ。
「私達が聞いてあげるから、隠れて聞いてる?」
その誘惑には勝てなくて、ついつい悪友共の企みに乗ってしまったのだった。


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