【三匹の子豚・前編】


 あるところに、イルカとナルトとサスケという名の三匹の子豚の兄弟が住んでいました。
 三匹はとても仲良しで、いつも一緒に緑の原っぱや小川で遊んでいました。
「イルカ兄ちゃん、大好きだってばよ」
 次男も三男も、長男のイルカが大好きなのです。いつまでもこんな風に暮らしていけたら幸せだと思っていました。
 ところがある日のこと、お母さん豚がこう言いました。
「お前たちも大きくなったから、自分で家を建てて暮らしなさい」
「えっ、紅母さん。これからはみんな一緒に暮らせないの?」
 イルカが驚いて尋ねます。
「ごめんね、イルカ。もちろん私だって可愛いみんなと一緒に暮らしたいわ。でも、自然の掟には逆らえないのよ。もういい加減に親元を離れて自分の家を建てなくちゃ……良いお嫁さんを捜すのも忘れちゃ駄目よ」
 お母さんに優しく諭されて、三匹は泣く泣く今住んでいる家を出て行くことになりました。
「イルカが一番心配だわ。もちろんナルトやサスケだって心配だけど……。狼には気をつけるのよ」
「はい、紅母さん」
「大丈夫だってばよ。すっげー家、建ててみせるから!」
「心配ない」
 そう言って去っていく三匹の後ろ姿を、お母さんはいつまでも見送っていました。
 三匹は歩き続けて、ちょうど道が三方向へと伸びている分かれ道にやってきました。
「それじゃあ、ここで別れよう」
「イルカ兄ちゃん。家を建てたら絶対遊びに来てくれってばよ。俺さ俺さ、頑張っちゃうからさ」
「俺のところにも……」
「うん、絶対行くから!頑張ろうな」
 こうして三兄弟はそれぞれ別の道を進んでいくことになりました。


 長男のイルカは、藁を使って家を作ろうと考えました。
 せっせと藁を運んでいると、鹿やリスといったさまざまな動物たちが通りかかって声をかけてきます。
「何をしてるの?」
「藁で家を作るんです」
 イルカがそう答えると、必ずと言っていいほど全員が笑いました。
「藁で作るんだってさ!」
「そんな家じゃ、狼の鼻息で吹き飛ばされてしまうぜ」
 イルカはそんなことはないと懸命に言い返すのですが、誰も真剣に話を聞いてくれません。
「それよりも遊びに行こうよ、イルカ」
「家ならみんなで立派なのを作ってあげるからさ」
 多くの動物が誘いに来ましたが、イルカが首を縦に振ろうとしないので、そのうち遊びに誘いに来る者は誰もいなくなりました。
 それでもイルカは毎日藁を集め、天日に晒してよく乾かしているのでした。
 ある日、そこへお腹を空かせた狼が通りかかりました。
 イルカの姿を見て、なんて美味しそうな子豚だろうと感嘆の溜息をつきました。
 狼はすぐさま食べてしまおうかと考えましたが、それよりも深刻な問題がありました。喉が渇いていたのです。
 多少お腹が空いていても動けますが、水分が足りなくなると死ぬことだってあります。しかも、喉が渇いたままで何かを食べたらきっと喉に詰まってしまうでしょう。それは困ります。けれど、周囲に水の気配はなく、お腹が空いているためもう動くこともままなりません。
 その場に座り込んで、どうしたものかと悩んでいました。
 そんな狼に気づいたイルカは、心配そうに声をかけます。
「どうしました?大丈夫ですか」
 銀色の毛並みの狼は、驚いて飛び上がりそうになりました。
 まさか食べようかと思っていた相手から声をかけられるとは思っていなかったからです。
「喉がカラカラで……」
と言い訳をすると、
「ちょっと待っててください!」
とイルカは慌てて駆けだしていきました。
 消えてしまった方角をぼんやり眺めた後、しまった巧く逃げられたと悔しがっていると、イルカがまた戻ってきました。手には水筒を持って。
「はい、これをどうぞ!」
「……ありがとう」
 わざわざ水を取りに戻った子豚を不思議そうに眺めながら、狼は水筒を受け取りました。
 まさか毒入りだろうかと恐る恐る匂いを嗅いでみます。しかし、どうやら正真正銘綺麗な水のようです。思いきって飲んでみて、その美味しさに驚きました。思わず一気に飲み干してしまいました。
「もっと汲んできましょうか?」
 つぶらな黒い瞳は、狼を心配そうに覗き込んできます。
 狼は考えました。
 目の前の子豚はたしかに美味しそうだ。しかし、水がなければこのまま脱水症状で死んでしまったかもしれない。そう思うと、さすがに命の恩人をこのままあっさりと食べるわけにはいかないだろう。
 結局、他に食べる物を探すことにしようと決意しました。ちょっと探せば食べる物などすぐ見つかる、と狩りの名人である狼は思ったのでした。
 そこへ、グーッとお腹の鳴る音が。
「あっ、お腹が空いてるんですね!」
 納得して頷いたイルカは、狼が止める暇もなくまた駆けだしていったのです。


●next●


●Menu●