【クリスマス、ケーキ片手に王子の家を訪ねる】

昨年の続き。『クリスマス、手作りケーキ片手に王子を探す


世間はクリスマスの日。
「カ、カカシ……」
今アスマの目の前に居る人物は、クリスマスらしくケーキの箱を抱えていた。
それはいい、それ自体は何の問題もない。クリスマスにケーキの箱、これ以上ふさわしい光景はない。
問題は、店のロゴも何も入っていない白い箱。
これはアレだ。昨年同様カカシ手作りに違いない。
固くなったスポンジを生クリームで誤魔化したという、ケーキとは言えない代物。いや、ケーキ作りの失敗自体は笑い話で済むことだ。それを持ち、あまつさえカップルしか集わない広場に佇み続けた強者、それがカカシだ。
今年はこれからどうするのか、聞く気はこれっぽっちもない。聞いてしまえば昨年と同じ轍を踏む気がしてどうしようもないからだ。
「ケーキ作ってきた」
やっぱりか!
昨年打ち明けた気安さからか、聞かれてもいないのにカカシ自らアスマへと説明してくる。
よせ、俺は聞きたくない!
しかし、アスマだとて話かけられて完全無視できるほど心が鬼ではない。
「そ、そうか」
反応があったことに喜びを感じたのだろう、カカシはするするとリボンを解き始めた。
「ど、どうした!?」
予想外の展開に泡を食っていると、ちょっとだけ口角を上げたカカシが言う。
「今年のはうまく出来た」
「あー、もしかして練習したのか」
こっくりと頷くカカシにアスマは眩暈がしそうだった。
「よかったな。たしかに美味そうだ」
とりあえず誉める。誉めるしかない。それで満足して帰っていただこう。
と、アスマは思った。
今年もイルミネーションスポットへ行くつもりなのだろうか。いやいや、今年は決して跡をつけたりしない。絶対だ。
が、アスマの認識は甘かった。
「これからイルカ先生の家に行くから、アスマも行こう」
「なぜ俺を誘う……」
王子の家へ行くならええじゃないかええじゃないかええじゃないか。それでも何でもええじゃないか。
もう踊り念仏ぐらい踊れそうだ。
逃げたい気持ちが先立って、後ずさろうとするアスマ。
「いいから行こう」
相手の予定は最初から聞く気がないらしいカカシは、アスマの腕を掴むと無駄に上忍の力を発揮して巨体を引きずっていった。



結果として、カカシが指し示す王子の家、すなわちイルカの家には子供が居た。
「ナル、ト?」
この顔は親父の屋敷で見たことがある。九尾の子だ。それに加えてうちは一族の生き残った子が所在なさげに正座していた。
おそらくどこからも声の掛からない小さな子供に、イルカだけがクリスマスをやらないかと誘ったのだろう。言うなればイルカにとってはただのクリスマス会。誰にも誘われない人間をチョイスして声を掛けたと思われる。
ちょっと待て。
カカシはいい。カカシが一人ぼっちなのは周知の事実であり厳然たる現実であるからにして、カカシが誘われるのはまったくもって正解だ。
しかし、誘われてしまった俺はどうなる。仲間認定なのか? そうなのか?
どうして対処してよいのか分からないアスマは、ふるふると震える。
「すごいっ。スポンジふかふかですよ!」
イルカの弾んだ声が聞こえる。
そりゃ昨年のフォークをも通さない鉄鋼のようなスポンジを知っているイルカにしてみれば、これは驚愕に値する。
アスマだってそうだ。そうか、ふかふかなのか。一瞬今の状況をすっかり忘れ、心の中で感心した。
それがいけなかった。その隙にアスマの席は確定し、そこに座るしかない状況に陥っていた。
ふて腐れたような子供と、冷めた目で料理を見つめる子供。見た目はそれほど変わらないが多少興奮気味な大人と、子供を見守る親のような慈愛の目で見つめる大人。それらが交互に配置され、妙な空気を醸し出す。
テーブルに所狭しと並べられた料理は、子供が好きそうな鶏の唐揚げやシチューにポテトツリーサラダ。いかにもクリスマスらしいメニューはきっとイルカの力作だろう。
「ほら、やっぱりクリスマスはシャンメリーだろ!?」
イルカが朗らかに宣言する。
アルコール度ゼロの飲み物。
アスマにはかなり辛い状況だった。この子供向けクリスマス会の料理しかない上に、酔っ払って誤魔化すことも出来ないとは。
それでもイルカの努力と、カカシの異様なまでの紅潮具合が功を奏したのか、まずナルトの機嫌が上昇して、それにつられてサスケもそれなりに楽しむ姿が見受けられるようになった。ただ一人アスマを除いては。
どうしてこうなった。
アスマは人知れず溜息をつき、甘ったるい飲み物を舐める。
「ああっ、いちごが足りない!」
手作りケーキの上に乗っているいちごが人数分ないのだという事実が発覚した。
「いや、俺は要らないから……」
というアスマの声はまったく無視され、問答無用のじゃんけんタイムへと突入。
あっさりとカカシが全敗を喫した。
「なんてことだ……」
作った本人に行き渡らないなんて!という呟きの後、なぜかアスマだけに向けた恨みの視線が突き刺さる。
いちごの数を考えて他人を誘うべきだったのではないか。結局は自分のせいじゃないのか。アスマの抗議は、カカシの涙を前にすべて無駄だった。いちごを譲ろうとしても一度決まったことを覆すのは男らしくないとか何とか言いつつ、恨みがましく見つめられるのは勘弁してほしかった。
もう嫌だ。
針のむしろで食べたケーキの味はさっぱりわからない。
こうして聖なるクリスマスナイトは更けていったのだった。


Merry Christmas!!
2011.12.24


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