【アスマ先生は今日も空元気・後編】


台所では先程買った食材が所狭しと広げられていた。
「イルカ、手伝うぜ」
「あ、いいんですよ。お客様にそんなこと……」
「いいって。俺だって野菜ぐらい切れらぁな」
慌てて止めようとするイルカにそう言うと、ちょっと躊躇った後笑顔になる。
「すみません、ありがとうございます」
こっちの好意を素直に受け止めてもらえると、俺としても気分がいい。遠慮しすぎて時間の無駄になるのは好きじゃない。いや、実際には純粋な好意ではないわけだが。
さっさと支度を終わらせようと白菜を切り始めた。
「わぁ、アスマ先生お上手ですね。慣れてるんですか?」
「まぁ、一人暮らしも長いからな」
と言い訳するが、誉められて悪い気はしなかった。
がしかしその時。背中にものすごい視線を感じた。
なんというかどんよりと暗くて粘着質なものが漂い、殺気も入り交じったような。
ハッと振り向くと、思った通り柱の影から除いている写輪眼があった。
「カカシ……」
「……アスマお前、何やってんの?一緒に台所に立って食事の支度なんて、仲良くしすぎなんじゃない?だいたいお前、買い物も一緒にしてきたみたいじゃないか。なにそれ、いったいどこの新婚さんだよっ!」
わけのわからない難癖をわぁわぁ騒ぎ立てるカカシは、なぜか柱にしがみついたまま台所へは入ってこなかった。
「そんなに言うなら、カカシお前も手伝えばいいじゃないか」
そう言ってやると、さらに恨みがましげな視線を送ってきた。
「俺がイルカ先生から台所立ち入り禁止令が出てるのを知ってて言ってるのか、この人非人!……あ、髭熊だから人じゃないのか」
後半の失礼な言葉はともかく、立ち入り禁止だとは知らなかった。イルカを見ると苦笑していた。
「だってカカシ先生がいると全然作業が進みませんから。皮を剥かせたら分厚く剥きすぎるし、つまみ食いはするし、邪魔はするし、散々だから禁止にしたんですよ」
「なるほど」
「カカシ先生。もうすぐできますから、あっちで待っててください」
「でもー」
「はい、このコンロ持って行って」
「……はい」
イルカに卓上コンロを渡されて、カカシはしぶしぶと居間へと向かった。
さすが恋人、扱いが慣れている。これならば問題も起こらないだろうと胸を撫で下ろしたが、甘い考えだった。ぐつぐつと煮えた鍋を前に、それを思い知った。
「アスマ先生、牡蠣煮えてますよ。小鉢に取りますね」
カカシの視線が痛い。
イルカは親切のつもりでしているのだろうが、自分で勝手に食べた方が精神衛生上いい。こんな状況で食べたら消化不良になるに違いない。
「あ、いや、自分で取るから」
断っても遠慮していると思っているのか、すでにイルカは片手にお玉を、もう片方に小鉢を持っていた。
「イルカ先生ー。自分で取るって言ってるじゃないですかー」
「でもアスマ先生はお客さんですから」
「イルカ先生、俺のも取ってくださいー」
「これを取ってからね」
ああ、そんな今のカカシを刺激するようなことを何故平気で口にできるのか、イルカよ。さらに鈍さに磨きがかかっている気がする。
カカシはぽとりと箸を落とし押し黙っていたが、急にバンと両手で食卓を叩いて立ち上がった。
「ううっ。俺というものがありながら、アスマ先生アスマ先生って……そんなにアスマが好きならアスマと結婚すればいいでしょ!うわぁぁん」
「あっ、カカシ先生!」
カカシは泣き叫びながら外へ走り出していった。


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