【その男、狭量につき】


今日も今日とて火影執務室の前では子供たちの声が響き渡る。
「イルカせんせぇー、もうすぐじゅぎょうのじかんでーす」
「はいはい。今行くからちょっと待っててくれ」
「はぁい」
部屋の中から返事が聞こえてきた。イルカが出てくるのを、子供たちは大人しく扉の前で待つ。
一方執務室の中では。
「迎えに来るの早すぎじゃない?」
と難癖をつける火影六代目がいた。
「この執務室と教室はかなり離れてますからね。俺の席が職員室にあればすぐ行けるんですけど?」
イルカは不満げな視線を退け、嫌みまで言ってのけた。
それもそのはず。
ある日授業から戻ってくると職員室にイルカの机はなく、立ち尽くすイルカに同僚が気の毒そうに教えてくれた。暗部が火影執務室へ運んでいったことを。
その足ですぐさま執務室へと直行した。
「どういうことですか、六代目!」
「えーだってイルカ先生。呼んでも忙しいって言ってなかなか来てくれないじゃないですか。だからね?」
何が『ね?』なんだとイルカは脱力する。
たしかに火影権限とやらで一日に何度も呼び出されている。顔を見たかったから声が聴きたかったから、などというくだらない理由ばかりだったので、授業中の呼び出しを無視したのだ。それが気に入らなかった六代目火影・はたけカカシは強硬手段に出た。
授業が終われば机のある執務室へ戻らざるを得ない。それが目的だった。
しかし、イルカにとって火影の執務室にアカデミー教師の机が鎮座しているなんてありえなかった。何度も机を元の職員室へと運んだのだが、その度に暗部がかっさらっていくのだ。
結局いつまでも続く堂々巡りと、懇願するような暗部の面に根負けしたイルカだったが、授業前に生徒が呼びに来るのが習慣になった。
呼びに来たらイルカは授業へ行ってしまうのでしばらく帰ってこない。そのためあの子供の声が聞こえると、カカシが不機嫌になっていくのもいつものことだった。
「今日は授業参観だから、みんな張り切ってるんじゃないですか?」
側近を務めるライドウがなんとかこの刺々しい空気を和ませようと口をはさむ。
カカシに効果はなかったが、イルカはライドウの言葉に顔を綻ばせた。
「そうですね、きっと」
授業参観なんて、とぶつぶつ呟くカカシに、イルカは向き直った。
「だから。いいですか? 今日は授業中に絶対呼び出したりしないでください」
「………………」
「返事は?」
「だってイルカ先生。いつも嘘はついちゃ駄目って言ってるから……」
嘘をつけないから返事をしない。
つまり呼び出す気満々ってことだ。
「……そっちがそのつもりなら俺にも考えがあります」
お。もしかして呼び出しを無視する気になったのかイルカ!
これまで幾度となく呼び出すために教室へ走ったライドウは、期待に満ちた眼でイルカを見つめる。
「途中で邪魔するくらいなら、教室の一番隅っこで座って仕事しててください」
「えええええ!」
カカシとライドウは同時に叫んだ。
もちろんカカシは普段からは信じられない幸運に対して思わず叫んでいたのだし、ライドウはライドウであまりの衝撃に叫ぶしかなかったのだ。


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