【白い恋人】


冬の寒さも厳しい二月。
大好きなイルカ先生と一緒に歩けば、氷点下だってなんのそのなのだ。まあ、木の葉の里はめったに氷点下になどならないけれど。こういうのは心意気だ。
家への帰りに通る商店街は、心なしかざわめいている。
今日は気温が低い割には出歩く人が多いなぁと眺めていると、ある店の前に異様に人が密集していた。
「あれ、なんでしょうね」
なにげなく聞いてみた。
「ほら、もうすぐバレンタインデーでしょう。だからですよ」
いかにも知っているでしょうと言わんばかりの話の流れに、いえ知りませんとは言い出せなかった。
だってだって、『知らないんですか?』と軽蔑の眼差しで見られたらどうするんだ!
「ああー」
とかなんとか言って誤魔化す。
なんだよ、バレンタインデーって。もんもんと考え込んでいると、イルカ先生が聞いてくる。
「カカシ先生も欲しいですか?」
「え!」
何を?
何が欲しいって聞いてる?
まさか俺が知らないって疑ってるんだろうか。
試されてる?もしかして踏み絵?
「そうですねぇ」
あたりさわりのないどっちともとれる返事をする。
「やっぱりそうですか……」
なんか表情が固くないか?失敗した?
「あ!いや!そんなことないですよー」
今度は否定してみる。が、イルカ先生はじーっと見つめてくる。
ばれた?ばれた?
俺がわかってないってばれた?
どこかにバレンタインデーのヒントが落ちていないかと必死になって探した。むしろ写輪眼を全開で回したいくらいだ。
さっきの店をよくよく見れば、そこはどうやらチョコレートを売っているようだ。
もしかして欲しいってあれ?
や、やばい。俺が甘いもの苦手なのはイルカ先生も知ってるから、きっと今の答えを不審に思われたに違いない。
チョコレートだってわかっていたら真っ先に否定していたのに。俺の馬鹿!
こうなったら話題をそらそう。
「あ、あ、あの白いのってなんでしょうね!」
「どれですか?」
「ほら、あのチョコの中に白いものが……」
ああっ、駄目だ。どうしてもチョコレートから話題が離れられない!もっと別の事じゃないと駄目だろ、俺。
「ああ!あれもチョコレートですよ。ホワイトチョコレート、知りませんか?」
「へぇ、初めて見ました」
「茶色のチョコとはちょっと味が違うんですよ」
「そうですか!」
違うと言えば……、とそこから話題が移っていったので助かった。
ほっと息を吐き、またボロが出ないうちにバレンタインデーについて調べておかなければ、と決意した。


次の日は、7班の任務も演習も休みだった。
さてどうやって調べるか、ときょろきょろと周りを見ていると、ちょうどいいところに向こうからうちの班の人間が一人で歩いてくる。きっと自主鍛錬にでも行くつもりなのだろう。とりあえず聞いてみよう。
「サスケサスケ、ちょっとこい」
「何だ」
電柱の影から手招きをすると、渋々ながら寄ってきた。
「バレンタインデーって何」
「…………」
だんまりか。
絶対こいつも知らないに違いない。ちっ、使えないやつだ。
知らないなら用はない。もう帰っていいぞと言うと、何かを言いかけようとしたが、結局何も言わずに帰って行った。まったく扱いにくい年頃だ。何を考えているかよくわからん。
ナルト…はたぶん知らないだろうな。意外性はあっても常識には疎そうだ。
サクラに聞くか。あの子なら詳しいだろう。
いや、ちょっと待て。子供は知らないかもしれない。
しばらく考え込んだ後、上忍控室に向かった。


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