【恋の花咲く勘違い9】


手を繋いで足早に歩く。
もうどうしたらいんだと内心ではおろおろしている。
しかし、状況がわかってないながらも真剣についてこようとするイルカ先生に、ふっと肩の力が抜けた。
昨日まではてっきりアスマのことが好きで、俺の告白はなかったことにされたのだと思っていた。相手になんてされないままフラれたのだと。
それが何もかもが誤解だった。
そうだ、わかっていたはずじゃないか。この人は常にどんな時でも一生懸命な人だと。
人の心を弄んだり嘲笑ったりするような人じゃない。
これまでの言動を思い返してみれば、あの時もあの時もあの時でさえも俺の恋が叶うよう一生懸命に努力してくれていたのだとわかる。たとえそれが完全な的はずれな行動だったとしても。
そんなに心を砕いてくれたということは、少しは俺に好意があると期待してもいいのだろうか。
夢も希望もなかった昨日に比べたら今のこの状況はどうだろう。すごい希望に溢れてるじゃないか。
感動に打ち震えていたら、名前を呼ばれていることに気づくのが遅れた。慌てて立ち止まったら、イルカ先生が俺の背中に激突してしまう。
馬鹿、何をやってるんだ俺は。
「あの、カカシ先生の好きな人って……」
イルカ先生がぶつけて赤くなった鼻を擦りながら聞いてくる。
まだそんなこと言ってるのか、この人。あれだけ言ったのに。
そして俺は悟った。いや学習した。
この人には直球でいかないと駄目だと。中途半端に匂わせるだけでは絶対無理!
今ここで。勇気を出せ、カカシ。
「アスマでもガイでもなくって、俺の好きな人はイルカ先生ですよ」
言えた。
これならイルカ先生も勘違いしようがない。これで間違いなく伝えられたと思うとほっとした。
しかし、伝えるのとその先に進むのは違う。
今まで別の人間に恋してると思っていた男が突然告白したからといって、すぐに恋愛対象になるだろうか。普通に考えて可能性は低い。
どうしたら付き合ってもらえるだろう。
恋人になって欲しい。それが切実な願いだ。
けれどそれを叶えるには少しだけ勇気が足りない。
「あの……こんな風に聞くのはちょっと卑怯かもしれないけど。今告白の本番をしたら、俺は良い返事を貰えそうでしょうか」
だって怖いじゃないか、断られるかと思うと。
想像するだけで落ち込むじゃないか、好きな人の顔が迷惑だという表情で占められるのは。
イルカ先生はしばらく俯いたまま考え込んでいる。
それを祈るような思いでじっと見つめる。
どうか頷いてもらえますように! いや、そこまで贅沢言わないから、せめて嫌われませんように!
待つこと2分、イルカ先生はそっと口を開いた。
「えっと、たぶん貰えると思います……」
「ホントですか!」
「は、はい」
マジですか!
頷いてくれたよ。
祈りが天に通じたのか無欲の勝利か。いやもう、どうだろうと関係ない。
喜びのあまり抱きつきそうになった。
危ない危ない。いきなりそれはないよな。
とにかくOKが貰えたんだから。これからゆっくりだよ。
あ、違う。まだ申し込んでないんだからOK貰ったというのは違うだろ。本番はこれからだ。
そう告白の本番だ。
ああ、昨日練習しておいてよかった。
「じゃあ、イルカ先生のおすすめのキスなしバージョンでね」
そう言うと、イルカ先生の頬はぱあっと赤く染まった。
よし。俺の恋人になってくださいと言うんだ。どんなに好きかも伝えよう。
練習したとはいえ緊張で心臓が飛び出しそうなくらいバクバク音を立てるから。それを振り払うために咳払いをした。
「あのね、イルカ先生」
そう切り出す。
たとえどんな誤解があったとしてもこの恋は本物。だから何があっても諦めたりしない。
そうすれば、もしかしたら幸せだって向こうからやってくるかもしれない。
今それを実感するのだった。


END
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2008.01.19


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