【勘違いは恋の素4】


それ以来、俺は張り切ってアスマ先生を何度も誘った。
まだ何の進展もないが、顔を合わせないよりも会う機会が数多くあった方がいいはずという信念の元、俺も頑張っていた。カカシ先生はもちろんのこと、少しずつアスマ先生と交流を深め、恋の橋渡しを出来るくらいの信用を得なくてはいけない。
しかし、なかなかうまくいかない。
カカシ先生は相変わらず俺にばかり話しかけてきて緊張は解けぬまま。俺がアスマ先生に話しかける度に緊張の度合いも高まっている気がする。
子供たちの話を聞いている時は比較的和やかな雰囲気なのだが、それ以外の話題だとあまり話が弾まない。
俺のやり方がマズイから場が和まないんだ、きっと。
カカシ先生が気にするかと思ってあまり恋愛関連の話にいかないよう真面目な話ばかりしていたから。もっとくだけた話題にした方がいいのかもしれない。
よし。今日こそは恋愛とかそっち方面の話をしてみよう、と決意した。ずっと聞いてみたいこともあったし。
その日は四人がけのテーブル席が空いているということで、珍しくカウンター席以外に座ることになった。
俺が座ってアスマ先生がその向かい側。
てっきりカカシ先生は向かい側に座るだろうと思っていたら、なぜか俺の隣に来るので驚いた。せっかくだから好きな人の隣に座ればいいのに。
でも、向かい側というのもいいものなのかもしれない、と考え直した。隣だと顔を見つめ続けていると不審に思われるものな、うん。いつでも顔を見られるというのも嬉しいことなんだと納得した。
頼んだ生ビールも全員分揃い、軽く乾杯して飲み始める。
さあ、今日こそ聞かなくちゃ。
「アスマ先生はどんな人が好みのタイプなんですか?」
ちょっと直球すぎたかな。
そう思いつつも口にした瞬間、カカシ先生がブーッと口からビールを吹き出した。
またそれがアスマ先生の顔を直撃。
カカシ先生はビールが気管に入り込んだのか咳が止まらない。
「大丈夫ですか、カカシ先生!」
テーブルに顔を埋めながらいつも猫背の背中を更に丸めている。
アスマ先生も突然の出来事に呆然としていて、咥えた煙草の火が水分で消えているのも気づいてない様子だ。
ぽたぽたと滴る雫と鳴りやまない咳。
「すみませーん、おしぼりください!」
カカシ先生の背中をさすりつつお店の人に声をかける。
持ってきてもらったおしぼりをカカシ先生に一つ、アスマ先生に一つ手渡す。
それで拭きとったりなんだりして、ようやく人心地がついた頃。
「アスマの好みのタイプって……なんでまたそんな」
カカシ先生が咳のしすぎでちょっと涙目になりながら聞いてくる。
責められてるんだろうか。どうしてそんなことを聞くんだって。
カカシ先生から余計なことをするなと言われてるみたいで少し悲しくなった。
でも俺はカカシ先生の恋を応援するって決めたんだ。だから負けない。そのためには協力していることを誤魔化さなければ。
「えっと……今後の参考のために」
何の参考だ、と自分でもツッコミたいくらいだったが、そんな言い訳しか出てこない。
でも参考にするのはあながち間違いじゃない。
アスマ先生の好みがカカシ先生と一致すれば万々歳。一致しなければしないで、それを目指してこれから頑張ればいいんだから。どうしても知りたい。
「で。どうなんでしょう」
再びアスマ先生に問う。
ここは答えてもらわないと先に進めない。俺の気迫が伝わったのか、アスマ先生はしばらく考えた後に答えてくれた。
「今まで特別コレっていうのはないな」
せっかく聞いたというのに、そんな答えじゃ何の役にも立たない。
期待していただけにがっくりと項垂れる。
「まあ、惚れた人間がタイプってやつだ」
ぼそりと言われた言葉に一筋の光を見た気がした。
そうか! 惚れた人間がタイプなら、カカシ先生に惚れればありのままのカカシ先生を受け入れてもらえるってことだ。
希望の道がぱあっと開けた。
「アスマ先生って心の広い人なんですね!」
嬉しくなって褒め称えた。
今のアスマ先生の答えに対するカカシ先生の反応はどうだろうと思って見てみると、顔色が悪かった。色白を通り越して蒼白と言ってもいい。
「カカシ先生、顔色が悪いですよ。まだビールが気管に残ってるんですか? それとも鼻に入って呼吸困難に?」
「………いえ、大丈夫です」
とても大丈夫とは思えない声色で答えられても全然安心できない。
どうしよう、やっぱり出過ぎた真似だったんだろうか。不愉快に思ったのかもしれない。
そう思うとさっきまでの浮かれた気分も途端に色褪せるのだった。


●next●
●back●
2007.06.23


●Menu●