【ピンクタイフーン・後】


「おはようございます。カカシ先生、アスマ先生」
「よぉ」
さわやかに挨拶され、おや?と思った。いくら許可したとはいえ、実際にこんなピンク男を目にすれば少しは眉を顰めるものだとてっきり考えていたからだ。
「見てください!どうですか、これ!」
誉めてもらいたがっているのが丸わかりのカカシは、幾分自慢げに胸を張る。
「ああ。上手く染まってますね。この色を出すのは大変だったんじゃないですか?」
などとイルカは言う。
染める?
「やだなぁ。イルカ先生のためならこれぐらい」
「でも器用ですね、手染めなんて」
自分で染めたのか……。そりゃあそうか。こんな目立つ色の忍服があるはずもない。
しかし手染めとは無駄にコピー忍者。無駄に写輪眼。
「髪の毛もねぇ、もう少し濃い色に染めたかったんだけど……」
と前髪の一房を引っ張って、自分の目で色を確かめようとしているカカシ。
「それぐらいでちょうど良い感じで、可愛いですよ」
などと言うイルカ。
周りには遠巻きに眺める群衆。
さすがバレンタインというだけあって、手に何かの包みを持ってこちらを窺っているくノ一もいた。イルカかカカシに渡そうと待ちかまえていたのだろうが、この異様なピンクな空間に近づいてこようとする人間などただの一人もいなかった。その点ではカカシの行動もまんざら的はずれというわけでもないだろう。
しかし、この二人の一番近くに位置する俺は、頭痛と眩暈がしそうだった。
目にも痛いピンク。それを間近で見るのだから。
「じゃあ、任務が終わったらすぐに迎えに来ますね!」
カカシがそう言い残して去っていった時には、どっと疲れが出たのも無理はない。
とんだ一日の始まりだと思いはしたものの、その日はそれで済み、やれやれと安堵の溜息をついた。


その翌日。
受付に向かえば、またしてもピンクの塊が目に入る。
今日もあの格好なのか。ふーっと意識が遠のきそうになり、慌てて足を踏ん張った。
しかし今日は幸運なことに、イルカがきちんと嗜めているようだ。これならば大丈夫だろうと安心する。
「カカシ先生、ピンクずくめは昨日一日だけの約束でしょう?普通の忍服に戻ってください」
「ええっ、イルカ先生。だって!」
「俺は浮気なんてしませんよ。それくらいわかってるでしょう?それに……いつもの格好の方がかっこいいです」
イルカが恥じらうように言うと、カカシは猛烈に感激しているようだった。
「わかりました!今すぐ着替えてきます!」
濛々とした煙だけを残して、カカシは消え失せた。しばらくは戻ってこないだろう。


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