【祝われる日】


それは心地よい目覚めだった。
晴れ渡った朝の空気もほどよい気温で部屋を漂い、身体を包む。昨日下ろしたばかりのシーツの肌触りは最高に良い。
今日は休みだからこのまま二度寝してもいいけれど、寝てしまうのも勿体ないくらいの心地よさ。
今日は一日任務のない日だ。昼はシカマルたちとラーメンを食べに行く約束をしている。それまで鍛錬しようかと思いついた。
今日はなんだか朝から幸先が良い。この前うまくいかなかったあの技も成功する気がする。
そう思うと居ても立ってもいられなくなり、勢いよく起き上がった。



気になっていた技は、修行の甲斐があってずいぶんと成功率があがった。結果に満足し、額の汗を拭う。
その時、声をかけられた。
「ナルトくん……」
「お、ヒナタ。お前も鍛錬?」
森で修行していると、たまに会うことがある。ヒナタはエリートの日向家にもかかわらずいつも努力を惜しまないから、それを見ると俺ももっと頑張らなきゃな、と思う。
「う、うん。頑張ってるんだね、ナルトくん」
「だって俺は火影になる男だってばよ! これくらいできなきゃかっこわりぃじゃん」
「ナルトくんはいつだって、か、かっこいいよ!」
「そっかぁ? へへ、ありがとな、ヒナタ」
誉められて、照れくさいけど嬉しかった。
みんなにもかっこよく見えていたらいいなぁ。
「……ナルトくんは、これからからどうするの? まだ鍛錬続けるの?」
聞かれて気づいた。太陽は高く昇っていて、もう昼に近い。
「うわやっべぇ、実はシカマルたちと一楽に行く約束してんだ」
今から行けばちょうどいい時間かもしれない。が、その前に散らばっているクナイを拾わなければここを離れるわけにはいかない。
ヒナタも拾うのを手伝ってくれる。いい奴だなぁ。
んん? 拾い集めたクナイの中に、見覚えがないクナイがある。重厚な黒がひときわ輝いて、切れ味がめちゃくちゃよさそうだ。もしかしたらどこかの名工の作かもしれない。値段なんか目んたま飛び出そうな気がする。
「これ、すげぇいいクナイじゃないか?」
「きっと誰かの忘れ物だよ。ナルトくん、貰っちゃえば?」
「えー、でも」
高そうなクナイだから、万が一にも後で誰かが取りに来る可能性だってある。
「クナイって消耗品でしょ? 落とした人も忘れてるよ。このクナイも、ナルトくんが使ってくれたらきっと喜ぶと思う……」
ヒナタが俯きながらもそう主張するので、それもいいかなぁとちょっと思った。もし誰も戻ってこなかったら、うち捨てられたクナイは本来の役目を果たせないままになっちゃうわけだし。そう考えると、俺が使った方がいいんじゃないかと思い始めた。もし誰かが返せって言われたらすぐ返せばいいし。
「じゃあ使っちゃおうかなぁ」
うんうんと大きく頷かれ、よしっと立ち上がる。元の持ち主の分まで俺が使ってやろう。大事にするからな、と心の中でクナイに話しかけて、仕舞った。
さあ、これからラーメンだ。
「そうだ、ヒナタも来る?」
「え」
「一楽のラーメンさ、一緒に食べに行かねぇ?」
みんなで食べた方が絶対楽しい。たしかキバも来るはずだから、人見知りが激しそうなヒナタも緊張しないだろう。
「いいの?」
「ああ、食べに行こうってばよ」
「あ、ありがとう!」
顔を真っ赤にしてヒナタは嬉しそうに笑う。
ヒナタは引っ込み思案だけど、たまにこういう風に笑うよな、と思って少し嬉しくなる。それだけ俺に心を許してる仲間って感じがするから。
「すごい嬉しそうだな」
「だって、すっ、好きだから!」
拳をぎゅっと握り締め、普段からは考えられないくらい大きな声で叫んだヒナタは、ちょっと目尻に涙が溜まっているような気がした。
「ああ。一楽のラーメンが?」
俺も好きだけど、そこまで主張するくらいなのかと驚いていたら。
「……う、うん。そう…なの……」
なぜか肩を落とされた。
変なこと言ったかなぁ。
あまりにもしょんぼりしていたので、なんとかまた笑ってほしくて口を開く。
「俺も好きなんだ。おんなじだな!」
「う、うん。そうだね」
「じゃあさ、今度一楽に行きたくなったらヒナタを誘おうっかなぁ」
「え。ホ、ホント?」
「うん。だって一人で食べるより二人で食べた方が美味いだろ?」
そう言うと、ヒナタも嬉しそうに同意してくれた。
へへ、一楽仲間が増えて俺も嬉しい。



待ち合わせは現地集合で。俺たちが行くと、みんなとっくに集まっていた。
「おっせーぞ、ナルト」
「わりぃ!」
「あれ、ヒナタも一緒かぁ? 呼びに行く手間はぶけたな」
シカマルにチョウジ、キバにシノ、サイも居る。驚くことにサクラちゃんやイノまで居た。誰かが誘ったんだろう。下忍だった頃の仲間がこんな一斉に集まるなんてなかなかないから、嬉しかった。
「じゃあ、さっそく食べようってばよ。俺は絶対ミソだからな」
そう言って一楽の暖簾をくぐろうとした時。
「ちょーっと待った、ナルト」
「ん?」
呼び止められて立ち止まった。
「その前に」
「えー、有志の皆さんから話があるんだ」
「ゆーしって何?」
「つまり。お前に伝えたいことがある人たちの集まりだ」
シカマルが説明して身体をずらすと、後ろの方にずらりと並んでいる人たちが見えた。
街の人たちだ。魚屋のおっちゃんや八百屋のおばちゃん、甘味処の看板娘、お寺の坊さんまで居る。更にその後ろの方には忍服の集団まで居る。
たぶん町内会長だか何だかの代表だという人が一人歩み寄ってきて、
「うずまきナルトくん、誕生日おめでとう」
と言った。
いつのまにかイルカ先生とカカシ先生がすぐ隣に居て、肩を抱いてくれていた。驚きすぎて気配にも気づかなかった。
あれだ。せーてんのへきれきってやつだ。
俺だって知ってる。今日はたくさんの人の命日だってこと。
だから俺が生まれたことを祝ってくれる人なんて、今までごくごく一部の限られた人しかいなかった。寂しいけれど、理由を知ってる今はそれが当然だとも思っていた。
でも。
「お前を九尾としてしか見られなくて許すことができなかった俺たちを、許してくれてありがとう。里のみんなを助けてくれてありがとう」
ペインが木ノ葉を潰そうとしたのを止めたことは、俺にとってはあたりまえだった。大切だったから。仲間が、先生が、大事なものがたくさんあったから。無くしたくなくて必死だった。
里の人たちもきっと同じだったんだろう。俺と同じで無くしたくないものがあって、それを奪われたから憎くて。でも今はそれを守れた俺を認めてくれるようになった。
そう、ちゃんと認められたんだ。俺自身を。
すごく嬉しかった。
「それでその、感謝の気持ちとして贈り物をしたいということで。いろいろ考えた結果、一楽のラーメンを贈ることにした」
「へ?」
ラーメン?
「里のみんなに募ったんだ、ナルトへのプレゼント」
「そしたらこーんなに集まっちゃって」
「だからお前。これから一生一楽のラーメンはタダ食いな。一生だぞ」
里のみんながラーメン代を寄付してくれたってことらしい。
「す、すげぇ……」
一生ラーメンがタダなんて。
365日毎日80歳まで生きると想定して、2万回以上食べられるんだ。それだけのお金をみんなが俺のために使っていいよって用意してくれたんだ。それも今まで認めようなんてしてくれなかった里のみんなが。
祝ってもらうだけでも嬉しいって思ったけど、やっぱり形になるとそれ以上に嬉しい。
ぶわっと涙が溢れそうになって、唇を噛みしめた。
泣いてるところを見られるなんてかっこわるい。
「ナルト。嬉し涙は人に見せてもいいんだよ」
とイルカ先生の優しい声が降ってくる。
「そ、なの…?」
「そうだよ」
頭を撫でてくれる手があまりにも優しくて、涙が止まらなくなる。
やっぱり恥ずかしくてイルカ先生の胸に顔を埋めると、ぎゅっと抱き締められた。
「誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう、ナルト」
その言葉はキラキラと輝いて、俺の一生の宝物になった。


HAPPY BIRTHDAY!!
2012.10.07


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