【田舎に泊まろう!1】


「カカシ、今度の仕事だ」
マネージャーが1枚の紙切れをひらひらと俺の膝の上に落とした。
「『田舎に泊まろう』?」
あれだ。泊まるところを事前に決めず、行き当たりばったりで一般人の家を宿として狙いを定め、無理矢理泊めてもらう番組。しかも、次の日の別れには必ず泣かなくてはいけないお約束があるのだ。
「行ってこい行ってこい」
他人事だからと、髭をむさくるしく生やしたマネージャーは気安く促す。余裕がありすぎてタバコの煙をふかしてすらいる。
「田舎なんて行きたくなぁーい。休む。急病」
そう言って、紙切れを放り投げた。
いいじゃないか、やらなくたって。別に仕事がなくて困ってるわけでもあるまいし。どうしてこのクソ忙しい中、わざわざ不便な田舎へ行かなきゃならないのか理解に苦しむ。
「あー、事前に言っておくけどソレ断れないぞ。今回は社長命令だからな」
「えええー?」
なんだよ、社長命令って。また綱手社長の横暴?
やめてほしいんだよね、思いつきで人を動かそうとするの。思いついたら即実行が信念らしいけど、周りは迷惑するんだから。
「田舎の人たちと交流を深めて好感度アップしろ、だとよ。コンセプトは『親しみやすいカリスマスタァはたけカカシ』だそうだ」
「何それ……『親しみやすい』と『カリスマスタァ』は矛盾してるでしょ」
「さぁな。俺は言われたことを実行するだけのしがないマネージャーだからな。矛盾には目を瞑るさ」
何がしがないマネージャーだ。先代の遺産の株をそっくりそのまま持ってるから、その気になれば社長になれるくせに。ただ単に面倒くさくて一般社員を装ってるだけなんだよ、この熊は。
「やだよ。田舎なんて」
「まあまあ、田舎はいいぞぉ」
棒読みで言われても説得力がない。
「ふん。熊は田舎が好きな生き物だからね」
嫌みを言うと、カウンターを食らった。
「ちなみに俺は行かねぇぞ」
「え、なんで!」
「芸能人が一人で行くのが番組のモットーだから」
「卑怯だ!」
思わず大声で詰った。
自分だけ楽するなんて!マネージャーのくせに。
「うんうん、俺としても非常に残念だ。が、モットーだからしょうがない」
全然しょうがない表情には見えなかった。俺がいないから羽を伸ばして遊びにいくつもりだ、こいつは。
「というわけで。額に汗して頑張ってこい」
そう言われ、容赦なく事務所を追い出された。


どんなところがいいのか、と番組スタッフに尋ねられたが、どんなもこんなもない。行きたいところなどないのだから聞かないでほしいと言いたかった。
が、そこは仕事。何か答えなくては向こうも困るだろう。
「できるだけ近場でお願い」
手を合わせて頼み込むと、あっさり了承された。
「それくらいの要望は聞きますよ。多忙な中を来ていただいてるわけだし」
お兄さん、話がわかる!あー、よかった。これで安心。
と思ったのが甘かった。
時間をかけ、全然どこなのか方角すら分からない場所にワゴンが移動し、停止する。そこでおもむろにディレクターが口を開いた。
「今回は新企画で。本当に一人で行動してもらうことになります」
「は?」
「カメラもこれで」
差し出されたのはデジタルハンディカメラ。子供の運動会なんかで一番使われるというアレだ。
「……つまり、俺だけ?」
「そうです。はたけさんお一人で!」
にこやかな割にはすごいこと言うな、この人。
俺に一人で田舎へ行って、その状況をカメラに撮れ、と?
「というわけで、よろしくお願いしまーす」
軽やかにお願いされ。
軽すぎるだろ!と突っ込む暇もなく、カメラとデイパックだけを渡されて、またまた放り出された。
なんなんだ。これでも俺は曲がりなりにも芸能人なのに、二度も放り出されるなんて。
今日は厄日に違いない。


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2010.04.24


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