【魔術師の恋2】


「綱手だ。こっちは弟子のシズネとサクラ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
 しっかり挨拶されてしまった以上、こちらも名乗らないわけにはいかない。
「お久しぶりです。カカシです」
「イルカです。こちらこそよろしくお願いします。……ナルト?」
 続けて挨拶するはずのナルトは、同い年の少女が物珍しいのかイルカさんの後ろに隠れてなかなか挨拶しようとしない。ちらちらと視線を送ることに専念しているようでもある。
 結局黙礼しただけでその場は終わった。
「これからここで暮らすことになった。イルカよ、こまごました世話などを頼まれてくれ」
「は、はい」
 もはや五代目を継ぐことが決まった綱手姫とその弟子たち。今この火影邸を切り盛りしているイルカさんが世話を頼まれるのは仕方のないことだった。
 言いたいことを言い切った三代目はしばらく休むこととなり、全員が部屋から退室して居間へと移動する。その移動中に綱手姫がふと口を開いた。 
「この子がナルト? 話には聞いてたが、大きくなったんだね」
「おばちゃん、俺のこと知ってんの?」
「ナルト、『五代目』ってお呼よびするんだよ」
「いいよいいよ。こんな子供から見れば、私だっておばちゃんだ」
「っていうか、おばあちゃんなんじゃあ……」
 つい俺は心の声が口をついて出てしまった。
 はっとした瞬間にはもう遅かった。身構えたから少しは軽減されたが、肝臓に肘鉄がきれいに決まった。死にそうなくらい痛い。
 余計な一言が身を滅ぼす。昔から知っていたはずなのに、最近は気が緩んでいるのかもしれない。腹を撫でつつ思った。
「まったくお前は、一言多いところは全然変わってないな」
「ま、人はそうそう劇的に変わったりしないでーすよ」
 人間の本質はあまり変わらない。そういうものだ。
「それよりも、どうして火影を継ぐ気になったんですか?」
「それはそのぉ。まあ、人それぞれ事情があるんだよ、カカシ」
 目を彷徨わせて誤魔化す綱手に、胡乱な視線を送る。
 前から綱手は俺と同様、火影になるつもりはないと断言していた。興味もない、と。それが一体どうして今さら、と疑うのは仕方のないことだろう。
「実は、借金がかさんで……」
「負けがこんでしまって……」
 二人の弟子に横合いから口を挟まれると、綱手が慌ててそれを止めようとする。
「シズネ、サクラ。お前らはちょっと黙ってな」
 おおかたギャンブル狂のせいで借金で首が回らなくなって、金に目がくらんだってところだろう。溜息が出そうだ。
 あいかわらずギャンブルに弱いのは変わってないらしい。昔からディーラーたちに鴨がネギをしょってるとまで言われていたくらいだから。
「ほら!猿飛先生は困ってる女性を放っておけない性格だから。な!」
 あははは、とわざとらしい笑いが響いた。
 まあ、理由はこの際どうでもいいのだ。今重要なのは、如何にして俺がイルカさんと一緒にいられるかということなのだから。なんとか火影を諦めてくれないか、と画策する。
「医者の方はどうするんです?」
「ああ、それはそうなんだが……まあ、あっちが副業みたいなもんだから、しばらくは休業かな」
「お医者様なんですか?」
 イルカさんが驚いて尋ねてくる。プロのマジシャンだと思っていたのだろう。
 いや、プロではある。それだけで食べていけるのだから。しかし、今の場合医者をやっても食べていけるわけだから、線引きは非常に微妙だ。どっちが本業とは一概に言えない。
「もともと手品が趣味の医者は多いんだよ。凝った手品ほどネタ道具の値が張るもんだから」
「ただし、医者にはヘタなのが多いですけどね」
「そうなんですか?」
「まあね。医者なんて『先生、先生』っておだてられてる人種だから。失敗しても誰も指摘してくれなけりゃ、そりゃあ上達もしないだろう」
 イルカさんは初めて聞く話に興味があるのか、一生懸命に頷いたりして綱手姫の話に聞き入っている。
 いやだから、医者の話はどうでもいいんだって。火影を諦めて医者に戻らないのならどうでもいいんだから。和気あいあいと話している二人をやきもきしながら見つめる。
 そして、ふと側に控えていた女性二人に気づいた。こっちから話を進めてみたらどうだろう。
「シズネさんたちは綱手姫の弟子なんですよね。長いんですか?」
「ええ、私はけっこう長いですよ。サクラはまだ新米ですけど」
「へぇ、それじゃあショーの助手なんかシズネさんじゃなければ駄目ですね。やっぱりああいうのは慣れた人じゃないと、ね?」
 それを弟子の二人がやってくれれば、イルカさんはマジックショーに駆り出されなくても済むのだ。我ながらいい着目だ。
「それは……綱手さまが決めることですから」
 遠慮しているのか躊躇いがちに答えているが、それでも今まで弟子だった自負から選ばれるだろうという思いはあるようだ。


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