【魔術師の弟子7】


その後じじいとイルカさんとナルトと一緒に食事をしたのだけれども。
ナルトが大きくなっていたのは感慨深かったし、金髪に蒼い目は四代目そっくりで微笑ましかったけれど、子供にとって初めて会ったおっさんと長い話があるわけでもなく。
食事中も会話は弾まなかった。
途中、なんとか話をして盛り上げようとするイルカさんとナルトの会話から、今ナルトはイルカさんに手品を習っていて「イルカ先生」と呼んでいるということや、ナルトはマジックマスター火影になりたがっているがまだまだ修行が必要だという程度のことはわかった。
比較的静かな食事を終わらせて、さっさと辞去することにした。
帰り間際、イルカさんが息せき切って玄関まで追いかけてきて、
「明日のマジックショーを観に来ませんか?」
などと言う。
「実際自分でするのとは違って、たまには観るのも楽しいですよ」
遠慮がちにかけてくる言葉は押しつけがましくはなかったけれど、返事を躊躇ってしまう。
「気が向いたらでいいですから」
本来ならばなかなか手に入らない最前列のチケットを、俺の手の中に押し込んでいった。
どうしようかと悩んだ。
観たいわけではないけれど、せっかくくれたものをと思うと無下に出来ない。
ステージから一番視界に入る最前列の席がぽつんと空いていたら目立つだろう。それを見てがっかりするだろうイルカさんを想像すると心が痛む。
そう理由をつけて観に行くことに決めたのだった。


始まる前に楽屋裏に顔を出しておけばいいだろう、とやってきたのだったが。
「カカシさん!ステージを観に来てくれたんですね!」
パタパタと駆け寄ってくる姿に、思わず口を押さえた。
イルカさんは何故かキンキラと輝くチャイニーズドレスを身に纏っていた。大きなスリットが入ったドレスはどう見ても女物で、鼻血ものに可愛い。
「なんてエロい……じゃなくて、なんて素晴らしい格好ですか!」
「そうでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
「三代目もそう言ってくださっているので、きっと一流のマジシャンから見るとそう写るのかもしれませんね。そう考えられない俺は、まだまだ修行が足りません」
あんのエロジジイめ。そんな上手いこと言いくるめて目の保養をしやがって。
それは言いくるめられる方が悪くないかと言えば、少々疑問もあるわけなのだが。目の前で照れたように笑う姿を見ると、騙す方が悪いと断言したくなるのは仕方のないことだろう。
「ショーの助手はいつもこんな格好です。ステージには華やかさも大切だって……」
一理はあるのだが、だからといって女装まがいのことをさせていいかという疑問はないものなんだろうか。そんなことを心配しているところに、すごい勢いで駆け込んでくる人間がいた。
「イルカ先生ー!じいちゃんが!」
「ナルト、どうした?」
「じいちゃんが急に倒れたってばよ!」
「えっ」
イルカさんこそ倒れるのではないかと思うくらいに顔面蒼白で、そっちの方が心配なくらいだ。
騒ぐだけで要領の得ないナルトの説明を聞くよりも、とその場へ急ぐことにした。
走っている間に少しずつナルトに質問していくと、どうやら通用口から入ってすぐのところで急に蹲ってしまったらしい。
駆けつけてみれば、顔色も悪く、汗が滲み出ている。話しかけてもろくに返事もしないのはよくない状態だ。
「救急車は?」
「呼んでない」
ナルトがちょっと泣きそうな顔で覗き込んでいる。
「こういうときはすぐ救急車だろうが!」
「だって、じいちゃんがステージあるから呼ぶなって……」
「手品馬鹿の言うことなんて放っておけ!すぐ電話しろ」
「うん。わかったってばよ!」
指示されて、自分に出来ることがあるのが嬉しいのか、ナルトは少し元気を取り戻して駆けだしていった。
「三代目……」
イルカさんの方も泣きそうなのには困った。こっちはどう対処していいのかわからない。
「大丈夫ですよ。脈拍はちょっと速いけど途切れたりはしていないから」
「は、はい」
それでも眉間の皺が減ることはない。きっと今までどうして気づかなかったのかと自分を責めているのに違いない。
救急車が到着するまでの間の決して長くはない時間が、どうしようもなく長く感じられた。
「付き添いの方は?」
「俺が乗ってくからだいじょーぶ!」
ナルトが担架の側で元気よく答える。
二人を乗せた救急車を見送った後、イルカさんが途方に暮れていた。
「ステージ……どうしましょう」
その姿があんまりにも迷い子のように悲しげだったので、つい言ってしまった。
「まだ開幕まで一時間ありますね」
「はい」
「じゃあ、俺がやります。どんな流れなのか教えて、イルカさん 」


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2004.07.31


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