【君よ知るや南の島1】


照りかえる太陽。
遙か遠くに見える水平線。
砂浜が透き通って見える透明な海。
確かに絶景だが、リゾート地にするにはいかんせん地理が悪すぎる。
交通機関は無きに等しく、大して商品価値のない島だ。
そんな島に何故俺がリゾート開発調査に来ることになったのかというと、ただの左遷だ。
あまりにも営業成績のいい俺だったため、複数の派閥から誘いがあった。
専務派やら常務派、社長の御曹司派まであったっけ。
そういうのは好きじゃない。
そう言って全て断ったら、今度は結託して会社から追い出そうとしてきた。
閑職を与えて、自分から辞めさせようとする。
はっきりと首にしないところがまたいけ好かない。
丁度この開発調査の辞令が下りたときに決めた。
ちょっと事情があって入社を希望した会社だったが、こんなくだらないところだとは思わなかった。
辞めるのにやぶさかではないが、どうせなら南の島でのんびりして会社の経費を使い切ってから辞めてやろう。
気が済むまで滞在して、会社が戻ってこいと言ってくるまで居座ってやる。
そう決意してやって来た南の島だった。


+++

本当に何もない島だった。
島民は自給自足で暮らしていて、無駄なものは一切無い。
娯楽施設どころか宿泊施設もないのだ。
頼み込んでようやく村長の家に泊めてもらえたから良かったようなものの、そうでなかったら本気で野宿だった。
あるのは熱帯植物と海だけ。
せめて思いっきり泳ごうと思っていたら、到着した初日から日差しが強かった。
全身が火傷したように真っ赤に日焼けして、塩水に入るなんてとんでもなかった。
ひりひり痛むため、木陰で一日を過ごす。
何のために来たのか。
帰りたくても、しばらく大きな船は通らないからこの島で過ごすしかないのだ。
「うーっ。痛い…」
少し動くだけで服の生地が擦れて痛い。
自然を甘くて見ていた。
たかが日焼け、と侮るなかれ。
「辛い…」
うんうんと唸っている間に、近づいてきた人影があった。
逆光で顔が見えない。
手にはココナッツの実を割った器を抱えていた。
中には、とてもココナッツミルクとはとうてい思えない色と匂いを放つ謎の液体がたゆたっている。
キツイ匂いがどんどん迫ってくる。
それをどうするつもりなんだ。
ぼんやりと眺めていると、なんと俺の日焼けにそれを擦り込もうとするではないか。
死ぬ。きっと死ぬ。
あれを塗られたら死んでしまう。


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