【泣く子には勝てない4】


イルカが案内した部屋は一見地味に見えそうなくらい落ち着いた雰囲気だったが、さすが太夫専用の座敷だけあって品の良い物ばかりで埋め尽くされていた。
カカシは床の間に置いてあった三味線を手に取ると、障子戸を開けて窓の桟に腰掛けてかき鳴らす。
「カカシさん、三味線なんてどこで習ったんです?」
「ん? 見よう見まねだーよ」
そうカカシは言ったが、三線の構え方を見る限り初心者とは思えない出来だった。
「カカシさんは器用ですねぇ」
イルカが誉めると、カカシは弾きながらにこりと笑う。
しかし、そのすぐ後に弾くのを止め、外に気を取られている様子だ。
「カカシさん、外に何か?」
「……いや。雨が降ってきただけだよ」
「また雨ですか。こうしょっちゅうだと嫌になりますねぇ」
イルカは苦笑して答える。
カカシが見下ろす先には、雨の中傘も差さずに佇む人影があった。
先程までふわふわと柔らかそうだった金髪が、今はべっしょりと濡れて張り付いている。財布を抱えて郭の建物を見上げる顔は、泣きそうに歪んでいた。
「どうしました? 外になんぞ珍しいものでも見えますか?」
「雨に濡れた子狐一匹〜」
「え?」
「寒さに震える先にあるものは〜」
突然と三味線付きで唄いだしたカカシの即興に、イルカはお上手ですねと誉めた後、いつもの心優しさを発揮する。
「じゃあ、子狐が可哀想だから部屋に上げて暖めてあげないと」
「駄目駄目。イルカは俺だけ見てればいいんだよ」
イルカは冗談だと思ったのか、くすくすと笑った。
はいはい、と返ってくる答え。
そうこうしているうちに、料理膳が運ばれてきてイルカは気を取られた。それはこちらに置いてあれはそちらに、と給仕の者に指示を与えるのに忙しい。カカシはその間も外を眺めている。
ようやく諦めてトボトボと帰宅の途につく後ろ姿をじっと見つめていた。
「カカシさん、今日のお膳は特別腕をふるってもらったんですよ。冷めないうちに食べてくださいまし」
「うん」
空返事だけしてなかなか動こうとしないカカシに、イルカはじれて何度も呼びかける。
「カカシさん」
「ん、わかった」
袖を引かれて、ようやくカカシは重い腰をあげた。
最後にもう一度外を見やり、
「あげな〜いよ、お前なんかに」
歌うように呟いて、ぴしゃりと障子を閉めたのだった。

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