【恋はあせらず7】


外に営業に出て昼までに戻って来られなかったら困ると思い、午前中は社内で過ごした。
ちょうどアスマも居たので例の専務の件を話し合い、打合せもできた。時間が経つのは非常にノロかったが、それでも気分が高揚して鼻歌が出そうなくらいだった。
アスマが訝しげな視線を向けてきたが、昼の楽しみを思えばそれも気にならなかった。
そんなところへ紅がやってきた。
アスマに用があったらしく、なんやかやと書類を片手に話している。一段落付いた後、俺にも話しかけてきた。
「何よカカシ、ご機嫌ね。デートの約束でもしてるの?」
「え」
デート。そうか、デートといえばデートだよな。
待ち合わせをして一緒に出かける。うん、立派なデートだ。
「実はそうなんだ。エヘヘ」
自分でも言っていて頬が緩んでくる。
イルカさんとデートなのだから。
「へぇ、どこへ行くの?」
「ん。10階」
「は?」
「だから、10階の食堂だ〜よ」
一瞬しんと間が空いた。
なんだよ、何が可笑しいんだよ。
「社員食堂がデートのうちに入るかってーの」
アスマが呆れたように言う。
「なんだよ。好きな人となら何処でだってデートでしょ」
食堂のどこが悪いのさ。イルカさんと一緒なら俺は何処でもかまわない。
最初は二人とも珍しいものを見るような目つきで俺を眺めていたが、俺の本気が伝わったのか納得したようだった。
紅がにっこり笑いかけてくる。
「……じゃあ本気のカカシに一つ忠告。初めての食堂デートで麺類はやめておきなさいよ」
「なんで?」
「馬鹿ね。啜ると汁が飛ぶでしょうよ。けっこう汚いわよ、あれ」
なるほど! さすが紅。
そこまで考えてなかった。
食べるもの一つで評価が変わってくるのだと今初めて気づいた。
「ほ、他には!?」
「カレーもやめておいた方が無難ね。服に跳ねて染みになったら最悪だもの。歯の隙間に挟まりやすいものはやめておきなさいね。青のりなんかもってのほか」
「わかった」
神妙に頷いた。
麺類とカレー以外に何がメニューにあったっけ、と記憶を辿ろうとするが、思い出せない。普段は外で済ませてしまうからあまり利用したことがないのが敗因だ。
事前に調べておけば良かったと後悔したが、今からでは遅すぎる。そうこうしているうちにもうすぐ正午だ。
「もう行かなきゃ! ありがと、紅。参考になったよ」
「どうしたしまして。頑張ってね」
待ち合わせの最低5分前にはと思い、食堂の入口近くに立って待っていたのだが。12時ぴったりになってもイルカさんは現れない。
時間にルーズということは性格からして考えられないから、もしかして仕事が押してるのかもしれない。
どうしようか。やっぱり社長室まで迎えに行った方がよかったのかな。待ち合わせという行為に心惹かれてついそう約束したのだが。
でも今迎えに行って擦れ違ってしまったらと思うと、ここを動くこともできない。
それにも増して、まさかとは思うが途中で嫌になったから来ないという可能性もある。
不安になり、俯いて考え込んでいたら、
「カカシさん」
とイルカさんの声で呼ばれた。


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