【さかしまの国5】


はぁー。
さきほどからカカシの口からは溜め息しか出ないようだった。
職員室の自分の机に頬杖をついて、視線はどこを見るでもなく辺りを彷徨っていた。
7班の初任務は草むしりだ。
きっと今頃ナルトあたりはぶーぶー不満を言っていることだろう。
イルカ先生に迷惑をかけてなければいいんだけど。
そこまで考えて、自然に脳みそが昨晩のイルカ先生を思い浮かべていた。
さすが元暗部。想像をはるかに超えた強さだった。
しなやかな腕や足が踊る様は美しかった。
ナルトの言っていた「強くて可愛い」というのも頷ける。
あまりにも強すぎて、呆然とするしかない。
にこりと微笑む姿は、それはもう愛らしいのだけれど。

「俺、昨日受付でうみの上忍見たぜ」
「ええーっ」
「マジかよ!」
「あの人いいよなぁ。上忍なのに気さくだし、いつも笑顔でさ。にこっとか笑われるとたまらない!」
「うんうん」
「でもすっげぇ強いって話だぜ?」
「ああー、憧れるよなぁ」

聞こえてくる同僚達の声に、今日何度目かわからない溜め息を止めるのは不可能に近かった。
尊敬とか憧れとかならよかった。
そんなものならよかったのに。
しがない中忍が里でも有名な上忍に恋をしたところで、叶うはずはないのだ。
「ため息なんてついてどうした、カカシ?」
「アスマ。お前こそアカデミーまで何の用だよ?」
カカシに声をかけてきたのは、以前から腐れ縁の上忍だった。
さっさと上忍になってしまった友人だが、それ以降も付き合いは続いていた。
前からの知り合いとなれば、上忍といっても私的な場で敬語を使うわけもない。
「今度の下忍担当のことでちょっとな。それよりも何かあったのか?」
「……別に」
「恋煩いか?」
いきなりの図星にカカシが勢いよく振り向くと、アスマの方が少し驚いたようで片方の眉を上げた。
「図星とは思わなかったな」
しまった、と思ったときにはもう遅かった。
「なんだよ、話聞かせろよ」
「言わない」
ムスッとした顔で断った。
どうせからかうだけに決まっている。
大体上忍であるアスマに相談したって解決するわけもない、とカカシは思っていた。


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