【さかしまの国7】


俺の家までしか一緒に歩くことができないのは、非常に残念だ。
もっと家が遠くにあればよかったとさえ思う。
気づかれないように横顔をちらりと窺ってみたり、間近に体温を感じ、微かな呼吸を聞くのは楽しい。
これじゃあ変態か、とカカシが溜め息を吐きそうになったとき、イルカが口を開いた。
「子供ってどんな行動をとるかわからなくて戸惑ってしまいます。いつも子供を率いているカカシ先生ってすごいなぁって思って」
いきなり誉められた上に、いかにも尊敬しています的な瞳を向けられ、カカシは焦った。
「すごいことなんてありませんよ。それを言ったら上忍の任務の方がよっぽど」
「そういうのとはまた違います」
「…まあ、確かに子供相手は体力勝負みたいなとこはありますけど。それでいて結構気を張ってないといけないし」
「あの……」
イルカが躊躇いがちに声を掛けてくる。
「子供と接する機会なんてあまりなかったもので……もしも自分が何気なくしたことが不快にさせたらとか、任務で心に傷を負ったりしたらと思うと…これからどうしていいのかわからないんです」
最後の方になると不安げなのがありありとわかる。
きっと初めて下忍を担当することに戸惑いがあるのだろう。
「でも、イルカ先生だって下忍時代があったでしょうに」
「俺はすぐ中忍試験を受けたので、あんまり下忍の頃の記憶がなくて……」
「そうなんですか。何才ぐらいの時ですか?」
「中忍になったのは6才です」
「6才!?」
「はい」
驚いて大声をあげるカカシとは対照的に、イルカは落ち着いた声で返事をする。
6才で。
そりゃあ他の子供に接する機会がないのも当たり前だ。
下忍ならばまだいい。
里のこまごました雑用のような依頼は数限りなくあって、そんな任務ばかりを与えられれば特に問題なくこなせる場合が多い。
しかし中忍となれば、そうはいかない。
戦に駆り出されることもある。下忍をまとめる部隊長になることもある。
そういったことを考えると、6才は異例の早さと言える。
その頃の子供はたいていが何も知らない子供で、馬鹿みたいに遊んでいるだけのはずだ。
カカシは胸がツキンと痛んだ。
才能ある子供は幼すぎる時期に忍びであることを要求される。
総じて人間としての感情を失ってしまいがちだ。それが良いか悪いかは別として。
けれど、その点からいってイルカは感情が豊かだった。よくこれで暗部などにいたものだと思えるくらい。
自分の痛みには無頓着で、他人の痛みには敏感な人のようだ。
人が傷つくことを酷く恐れている。
その不安を少しでも取り除いてあげたいとカカシは思った。


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