そんな出来事があってから、カカシはさらにイルカを好きという気持ちが毎日募っていくような気がしていた。
不思議と顔を合わせる機会も多く、そんなときはイルカも嬉しそうに近寄って挨拶をするなり、食事に誘うなりしてくれるのがカカシには嬉しかった。
たとえ単なる友人と思われていたとしても、側にいられるだけでも本当はすごいことなのだ。なんといっても上忍相手なのだから。
一緒にいたい。
ただそれだけのささやかな望みだと、カカシはひっそりとため息をつく。
それを見た同僚が「恋煩いか？」などとからかっても、図星のせいでろくな返事もできないでいた。
アカデミーの職員室で小テストの採点をしても、なかなか赤ペンは進まないままだった。
そんなところへ、任務の終わったナルトがやってきた。
またラーメンを食べに行こうという誘いだろう、とカカシは苦笑した。ラーメンばっかりじゃ栄養が偏るなと思いながら。
「カカシ先生ー。一楽行こうってばよ」
想像通りの言葉に、思わず声を上げて笑ってしまい、ナルトに不思議そうに見られてしまう。
そしてカカシは、採点は持ち帰ることに心に決めて立ち上がった。

一楽で熱々のラーメンをすすりながら、ナルトは唾を飛ばさんばかりに興奮しながらしゃべり始めた。
「俺さ、俺さ。火影になる！」
「あー、お前の夢だもんねぇ」
「前からそう思ってたけど、今は絶対なるんだってばよ！」
「はいはい」
耳にたこができるほど聞かされているカカシは、少々適当に相づちをうっている。
「だってさ。火影ってことはこの里で一番強い忍者ってことだろ？イルカ先生より強くなって、先生のことを守ってあげるんだってばよ。そしたらきっと俺のこと好きになってくれるはず！ニシシ」
楽しみでならないというように笑うナルトの言葉に愕然とした。こんな子供までそんなことを考えているなんて。
大好きなイルカ先生。
みんなから好かれるイルカ先生。
自分だけが好きなわけでは決してないのだ。
「そ、そんな強ければ好きになってもらえるとは、か、限らないだろ？」
あまりの動揺にどもりながらもなんとか聞き返してみる。
「だってイルカ先生が言ってたんだってばよ！『強い人が好き』だって！」
「えっ」
「この前聞いたら教えてくれたんだ。『誰にも内緒だぞ』って。なんか顔を真っ赤にしてて可愛かったってばよ」
自慢げに話すナルトの声は、カカシには半分も聞こえてこなかった。

『強い人が好き』

そんな、だって、上忍のあの人より強い人間なんてそうそういるもんじゃない。
ましてや俺なんか……全然ダメってことじゃないか。
１％の可能性さえない。
恋人になれるかも、なんて図々しい考えを持ったことは欠片もないとは言わない。
好きになって側にいられたらもしかしたら、と淡すぎる期待だってあったのだ。
だって、好きなんだから仕方がない。もしかしたら、万が一、ってことだってあると思ってしまうのは人間として普通だ。
でも、そんなものは粉々に砕け散ってしまった。
呆然とするカカシの前には、いつまで経っても食べてもらえないのびてふやけたラーメンが鎮座するのみだった。