【一年後の今日という日にはきっと】後編


イルカ先生を追って里の中を走り抜ける。
出だしで蹴躓いたので、結局イルカ先生の家まで追いつけなかった。不覚。
きっちりと閉じられた扉を最初は遠慮がちにノックしたが、ぜんぜん反応が無い。次第に不安になり、どんどんと激しく叩くが扉が開くことはなかった。
具合が悪くて戸も開けられない状態だったらどうしよう。無理に鍵を壊して入った方がいいんだろうか。
なんだってこんな急に。
……まさかあの惚れ薬?
あの怪しい薬は、実は毒だったとか?
いやでも、あれはイルカ先生が用意したものなのにそんなはずは。
もしかしてイルカ先生も騙されて貰った物とか。それとも嫌いな人に飲まされたら発疹が出るとか!!
ひぃ。どうしよう俺。
あれはもしかして、卑怯な真似をしたらいけないという恋の試練だったのか!
俺は考えながら、玄関前でうろうろぐるぐる歩き続けた。
「あら、カカシじゃない」
「紅」
「なにやってるの、熊みたいに」
とりあえず誰かに相談して意見を聞けるという状況にホッとした。自分一人ではどうにも暗い方向へ行ってしまってよくない。
これこれこうなんだけど、どう思う?と聞くと、紅は笑い出した。
「じゃあ発疹ができて、ようやく理解したってわけね。よかったじゃない」
よくわからないことを言う。
何がよかったのかさっぱりわからん。
「あの薬、私が渡したのよ」
「お前が?」
やっぱり変な薬だったんだ!
俺がこの恋について相談しても『うじうじ鬱陶しい』と切り捨てる紅のことだから、変な薬を飲ませて嫌われてしまえと思っても不思議じゃない。
騙されたイルカ先生は今頃!
今すぐ扉を壊そうと手にチャクラを溜めていると、紅に頭を叩かれた。
「失礼ね。別に毒じゃないわよ」
「え〜」
ホントかよ。
疑惑の眼差しを向けても、相手はしれっとしている。
「相談されたのよ、イルカ先生に」
「え?」
「だ・か・ら。アンタの好きな人を知りたいって」
ええ!? それはまた何故。
驚愕に言葉も出ない。
紅によれば数日前にこんなことがあったという。


***


「紅先生。俺、どうしてもカカシ先生が誰を好きか知りたいんです。どうしたらいいでしょう」
イルカ先生に相談された。
紅は普段から『この人、カカシに気があるんだわ』と考えていて、お互いの気持ちに気付いていない二人がもどかしいと思っていたらしい。
まあ、片想いの相手が自分じゃないと思うところが奥ゆかしくていいのかもしれないけど?
紅はくすりと笑うと、イルカ先生にこう言う。
「私にいい考えがあるわ」
ここで例の薬が登場。
惚れ薬を渡して、それを飲まされた人間がカカシの好きな人。
これを利用すれば想い人が誰か分かるはずだとそそのかす。惚れ薬と偽って、発疹が出る薬を渡しておけば万事オッケーだと。
「大丈夫。別に本当に病気になるワケじゃないから。飲めばしばらく発疹が消えないだけ。だから見たらすぐわかるわよ、誰が薬を飲んだか」
「でも……」
「顔中に発疹ができたら、いい気味じゃない?」
紅がからかうようにそう言うと、イルカ先生はしばらく沈黙した後、ちょっと泣きそうに顔を歪めたそうだ。
「……そうですね。いい気味だと思います」


●next●
●back●


●Menu●