【今日見る夢は3】


いや、実際会ってみて、たしかに目の前にいるのが自分以外の何者でもないことはわかっていた。
チャクラだってそう示している。それぐらいは血の上った頭にもわかる。10年後から来たというのも本当だろう。
しかし、何が気に入らないかって、イルカ先生がその男には親しげな笑顔を向けるということだ。
同じはたけカカシなのに、それならどうして俺には笑ってくれないのか。
しかもあいつのことは『カカシさん』と呼ぶ。それが一番気にくわない。
だいたい、過去へ戻れるというあの術を使ってやってきたというが、あれはほとんど実用性がないと言っていい。
術を習得しようと躍起になっていた頃は、十二年前の九尾襲撃の日や、オビトから写輪眼を貰ったあの日に戻ることを考えていた。けれど、細かい時間指定ができず里を離れることができないこの術では、どちらも無理だと悟った。今の俺には意味がない術だ。
だからといって任務で使うかといえば、一生に一度しか使えない術をそんなことで使うなんてもったいない。きっと任務はまるっきりの嘘っぱちだ。
そんな嘘つきを、イルカ先生は従来の人の良さで信じてしまっている。家に上げて同棲の噂まで立っているなんて、許し難いことだ。
「じゃあ、お前だったらどんな状況なら術を使うの?」
「え……」
逆に尋ねられて戸惑った。
どんな状況なら。
俺だったら世界の終わりが来た時、だろうか。もう何もかもがどうでもよくなった時?
ぼんやりと考えているうちに話題を変えられ、夕飯を作るという名目のためにイルカ先生は台所へと行ってしまった。
くそっ、誤魔化された。
「目的は何だよ」
「教えな〜い」
こいつ、イルカ先生の前でだけ猫被ってる!
さっき『俺が説得しておきますから』とか言ってたくせに。
性格が悪い。元々は俺なのだが、年を食った分だけ更に手に余る。
「まさか未来で振られたからって、若いイルカ先生を攫いにきたんじゃないだろうな」
俺の考えつく理由なんてこれぐらいだ。
そう言ってやると、相手はにやりと笑った。
「お前、告白もしてないんだって?」
馬鹿にしたような言い方が癇にさわる。
「人の勝手だろ」
「素直に言えばいいのにねぇ」
それができれば苦労はしてない。
「ほっとけよ!」
思わず怒鳴ると、笑みを引っ込めて真剣な顔になる。
「言わないでわかってもらおうなんて甘いんだよ。そりゃあイルカさんだって甘いけどね。でもあれは別。だって俺の大事な大事なイルカ先生だから。でも、お前は駄目。そんなことで傷つけるんだったらさ、目の前から消えてよ。あ、そうだ。なんだったら俺が殺してやろうか。そうしたら俺が入れ替わって暮らせるじゃないか! ああ、そりゃ良い考えだ」
まるっきり自分勝手な言いぐさに、まさしくこいつは俺自身なのだと納得する。しかし納得するのと許容できるのはまったく別物だ。
「させるかよっ」
「じゃあお前も頑張りなさいよ。素直にならないと、俺が攫って行っちゃうよ」
そう言ってにんまりと笑った。
絶対本気だと思った。
人の良さそうな振りをして、油断させておいて攫っていくんだ。
その証拠に、何も説得なんてしていないくせにイルカ先生が近づいてくる気配がした時は、パックンの癖がどうだのそれらしいことを言って、卑怯きわまりない。
わざとだ。わざとやってる、イルカ先生の気を惹くために。わざとらしく『いただきます』なんて言うのも、料理を誉めるのも、何もかも。
しかもそれでイルカ先生が喜んでいるんだから困る。いちいち嬉しそうに笑うんだ。
悔しかった。
俺の好物がサンマなのは本当だけど、それはきっと奴から聞いたに間違いない。そんな理由で知っていても嬉しくない。本来なら俺自身で伝えるべきことじゃないか?と不満に思う。そんなことを言う勇気などなかったけれど。
このままでは本当に攫われる。
絶対阻止しなければ。何が何でも。


●next●
●back●


●Menu●