【明日の夢を今日夢見る8】


そんな時に、かたりと扉が開く音がした。
あ、と思う間もなく瞬く間に抱き込まれ、なぜかカカシさんの腕の中にいた。
「イルカ、そこにいるのか?もう受付の交代時間になっ……」
部屋に入ってきたのは同僚だった。きっと交代時間がとっくに過ぎているのに来ない俺にしびれを切らせて探しに来たのだろう。そして、関係者じゃない人物がいることに驚いている。言いかけたであろう言葉は萎んでいって身体は硬直していた。
失敗した。カカシさんの話に気を取られて、近づいてくる気配に気づかなかった。
どうしよう。
俺一人だったら何とでも言い訳できるが、しっかり見られてしまっては咄嗟に良い考えが浮かばない。
「あ、あのっ。こ、これは……」
とにかく誤魔化さなくてはと口をぱくぱくと動かしたが、何も有効な言葉は出てこなかった。
しかし、それにも増して同僚の反応がおかしい。あれ?と首を傾げた。
人を呼ぶわけでもなく立ち尽くしていて、握りしめた拳がブルブル震えているように見える。
相手が上忍だから恐れているのかとも思ったけれど、そういうわけでもなさそうだ。それにカカシさんからは殺気もチャクラも感じられないから、怖がるというのもおかしな話だ。
変ですね、と振り返りカカシさんに話しかけようとして、今の自分の状況に気づく。なんとカカシさんに抱きしめられていたのだった。
振り返るまでもなくすぐ間近に端正な顔があって、どうしようかと酷く狼狽えた。背中に体温を感じて、慣れない状況に緊張のあまり心拍数も上がってしまう。
「もしかしてイルカさんを探しに来たの?」
「はっ、はいぃ!」
カカシさんの問いに、同僚はひっくり返った声で返事をした。
「ああ、すみません。もう交代の時間だったんですね。つい引き留めてしまって……」
引き留めるって、別に引き留められた覚えはないのだけど。
そう不思議に思っていると、カカシさんはぼんやりする俺の右の頬に軽く口づけていた。
驚きのあまり固まっていると、今まで黙り込んでいた同僚が口を開いた。
「は、はたけ上忍とつきあってたなんて……知ってたらもっと早くに諦めたのに。お、お幸せにっ」
「あ?待てよ!」
なんだか訳のわからないことを喚いて、走り去ってしまった。資料室に関係者以外がいたということを言及することなく。しかも、目には涙が滲んでいた気がする。
「どうしたんでしょうね?」
首を傾げてカカシさんに意見を求めた。
「きっと人目を忍んで会っていたと思ったんでしょ」
「あっ、そうか!」
思わず手をぽんと叩いていた。
よく考えてみれば、なるほど人気のない部屋といえば、恋人たち二人が一緒にいるにはもってこいな状況だ。
さすがカカシさん。こんな風に二人でいれば、リスト表を探していたという怪しい行動を誤魔化せるだろう。任務を遂行する知恵なんだと感心した。同僚には誤解されてしまったたみたいだけれども、仕方がない。
謎が解けてすっきりした気分になっていると、カカシさんに溜め息をつかれた。
「イルカさん。前にも言ったでしょう、ぼんやりしてたら駄目だって」
うっと言葉に詰まる。
任務に協力したいと言いながら、こんな頭の回転が悪くては役に立たないと言われているのだと思った。恥ずかしくて穴があったら入りたい。
「あの男はあなたのことが好きだったんですよ」
「ええっ?」
「ほら、気づいてない」
「そんな…だって……」
そんなはずはないのに。
そう抗議したかったけれど、カカシさんに言い出せる雰囲気ではなかった。
「周りを惑わすのは止めてくれませんか」
「え」
「あなたがね。受付でちょっと挨拶のつもりで笑いかけたり、労いの言葉をかけたりするだけで、人生棒に振りそうになる男だっているんですよ」
そういうところは昔っから鈍いんだから、とカカシさんは溜め息混じりに呟いている。
人生棒に振るってなんだ。
カカシさんの言ってることは、よくわからないことばかりだ。俺の方こそ溜め息をつきたいと思った。


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2004.12.18


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