【明日の夢を今日夢見る13】


「た、ただいま帰りました」
慌てて目を擦って誤魔化そうとしたが駄目だった。
「何かありましたか?」
俯いた顔を心配そうに覗き込んでくるカカシさん。
「イルカさん?大丈夫?」
優しく聞いてくる声に涙がこぼれた。
いったん溢れると止まらなくなってしまった涙の理由を聞くわけでもなく、カカシさんはただ側にいてくれた。
しばらくそうしているとだんだんと落ち着いてきて、目の前に差し出された温かいお茶を啜る余裕も出てきた。いい歳をした大人が恥ずかしいことをしたと思ったが、なぜか苦しさはどこかへ行ってしまい、すっきりした気分だった。
「実はもうすぐ中忍選抜試験があるんですが……」
ナルトたちが推薦されたことや思わず意見してしまったこと、カカシ先生の態度などをカカシさんに簡単に説明した。
するとカカシさんは、少し眉を顰めた。まるで古い傷が痛んだように。
その姿を眺めていると、しばらく黙り込んだ後に口を開いた。
「イルカさんがアカデミーを卒業したばかりの子供たちに受験させるのが不安な気持ちもわかりますが、上忍師だって不可能と思ったことはさせません。部下だからいいかげんに見ているわけじゃないんです。むしろ逆で、何よりも大事に思っているんですよ」
しゃべっている内容が、まさに今日の出来事の説明のように聞こえてビックリしていると、
「ああ、すみません。あの時うまく言えなかった言い訳というか……」
とカカシさんはガリガリと頭を掻いた。
そうか、カカシさんはカカシ先生なんだ。あたりまえのことなのにきちんと繋がってなかった。
きっと今のカカシ先生は昔のカカシさんの経験したことなのだ。
そう考えるとなんだか嬉しかった。あのとき睨まれて傷ついたけど、そんなつもりじゃなかったと言ってもらえたも同然なのだから。そして、子供たちの成長をちゃんと見て考えていてくれることに安堵した。
本当は推薦したことにだってきちんとした理由があるのだろう、カカシ先生にもアスマ先生にも紅先生にも。ただ自分がその理由を知らないだけで。
「上忍師の方々が部下のことを考えてない、なんて思っているわけじゃないです。……ただ、なんだか自分一人が置いてけぼりになったみたいで寂しくて。それに、アカデミーを卒業したとたんに急成長するなんて、俺の指導が悪かったのが丸わかりで居たたまれないっていうか」
力なく、はははと笑う。
そう。本当はアカデミーなんて必要ない、と否定されているみたいで激しく落ち込んでしまったのだ。
「そんなことないですよ。イルカさんがちゃんと大地を耕して種蒔きしてあったから、今芽が出たんですよ」
思わぬ誉め言葉に、恥ずかしくて顔を赤くしながら『ありがとうございます』とお礼を言った。
頭を下げたときにそっとカカシさんを窺うと、穏やかで優しい瞳が自分に向けられていて、更に頬が熱くなった。
そんなとき、玄関の扉がどんどんと切羽詰まったように叩かれた。緊急の連絡かと思い、慌てた。
「はいっ、今出ます」
そう返事をしながら、さっき泣いたせいで目が赤くなってなければいいんだけど、と心配する。
扉を開けて目の前に立っていたのは、カカシ先生だった。
「あ……」
どうしてこんなところに?と思う暇もなく、
「ちょっとお邪魔しますよ」
と言って、カカシ先生はずかずかと家の中に入ってきた。
「え、あの……」
いきなりの出来事に制止できるわけがなく、その行動を妨げていいものかどうか判断する暇もない。
それでも追いかけようとして、いきなり立ち止まったカカシ先生の背中に激突した。
忍びとして恥ずかしい。狭い家だからすぐに止まるのはわかっているはずなのに、あまりにも慌てふためいて冷静な判断も行動もできなくなっていた。
「こいつ、誰ですか」
カカシ先生は振り返って、目の前の人物を指差している。すごく憮然とした表情で。
「あの……そのぉ」
どうしよう。説明する前に実際に会ってしまうなんて。どう説明したらいいのか。
おろおろとしどろもどろになるばかりで、なんとも言いようがない。
そんな中、カカシさんがのんびりと口を開いた。
「はたけカカシだーよ。未来からきたね」


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2005.02.19


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