【子分の悩み】後編


テンゾウの指導のもと、できあがった料理を三人で食べることとなり、食卓に座る。
見た目は普通に美味しそうな料理だ。それをイルカちゃんが口に運ぶ。
「どうです、自分で作った料理は。美味しいでしょう?」
テンゾウが問いかけると、イルカちゃんはちょっと困ったように黙り込んだ。
おや、と思った。
いつもはあんな幸せそうな顔をして食べてくれるイルカちゃんが。
味付けに失敗したのかと思い、俺も一口試しに食べてみた。なるほど、納得がいった。
「これ、塩入れすぎじゃない?」
「え、そうですか? これくらいが普通でしょう」
テンゾウが平然と答える。
何を言ってるんだ、こいつは。どう考えても塩味効き過ぎだろうが。
「これだと1日の塩分が取りすぎになるじゃないか……お前は将来高血圧症になると俺は予言する!」
「えええっ」
塩分は1日10g以下が理想的。味付けには足りないと思うかもしれないが、工夫次第では十分可能だ。健康を考えれば塩分控えめは日常の常識だろう。
味付けはもちろんのこと、栄養バランスもすべて考え尽くして料理してきた俺を舐めるんじゃない。
そうだ。テンゾウなど敵ではない。
ふははは。俺は勝ったー!
勝利を確信し、その食事会というか調理実習の試食会のようなものは機嫌よく過ごせた。
が、これ以上イルカちゃんといる時間を他人に邪魔されたくない。食べ終わった瞬間から『早く帰れ』オーラを放っていると、テンゾウもさすがに察したらしく『もうお暇します』と立ち上がった。
「じゃあ、俺が玄関まで見送ってくるから、イルカちゃんは食器を片付けておいてくれる?」
と言うと、重大任務を負かされた人間のようにイルカちゃんは真剣に頷いた。
そして玄関でテンゾウの胸倉を掴んだ。
「いいか。俺の許可無くこの家に上がり込むんじゃないよ」
「わ、わかりました、先輩」
本当にわかったのかと思いきや。
「じゃあ、今度は先輩が居る時にお邪魔します」
などとぬかすので、どれだけ図々しいんだと歯軋りする。
俺が居たら最初からここの敷居を跨がせるわけがあるか!
「もう二度と来るな」
そう言い捨てると、テンゾウの目の前で扉を閉めた。
わざと鼻を挟んでやればよかった。今度居留守を使ってこっそり観察しておいて、のこのこ上がり込んできたら雷切お見舞いしてやるからな。
台所へ戻ると、イルカちゃんは皿を洗っているがどこか元気がない。
料理もして片付けもしてなんて、疲れたのかもしれない。今まで何もしてこなかったイルカちゃんにしてみれば、一日にする量をオーバーしてるよな。
「イルカちゃん、後は俺が片付けるから」
声をかけると首を横に振る。
別に疲れたわけではないらしい。けれど、イルカちゃんはしょんぼりしていた。
「どうしたの?」
「美味しくなかった」
せっかく作ったのに自分が美味しく思えないなんて、よほどショックだったのだろう。
「そうだね。あれはちょっとしょっぱかったからね」
慰めると、イルカちゃんはそうではないと言う。
「そんなにしょっぱくはなかったよ。でも……いつも食べてるのよりマズかったよ?」
イルカちゃんは眉間に皺を寄せ、ちょっと口を尖らせた。
かっ、可愛い!
あ、いやいや。今は話し中だった。
料理がマズかった? そうだったろうか。それなりだと思ったけど。
「カカシが作ったのが一番美味しいから」
それは俺にとっては殺し文句じゃないか!
今までの俺の努力の日々が報われるというものだ。
「そうでしょ? これからもずーっと俺が作ってあげるからね」
だから捨てないで。
俺が必要だって言って。
祈るように見つめた。
が。
「でも……」
イルカちゃんは口ごもった。
しばらく考え込んだ後、ふるふると首を振る。
「それとこれとは別だよ。やっぱり迷惑かけてばかりじゃカカシに悪いから、ヤマトさんに教えてもらう!」
爆弾発言だった。


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