【恋のはじまり・前編】


最近困ったことがある。
カカシ先生のことだ。



最初は全然気づかなかった。
上忍なのに中忍に気軽に話しかけてきてくれる、気さくないい人だと思っていた。
ナルト達の今日あった出来事とかもよく話してくれるし、その他の話題も豊富だし、カカシ先生と話すのは楽しかった。意外と好みも似ていたりして話題には事欠かない。
家の方角も同じということもあり、仕事が終わると一緒に帰るのがなぜか日課になってしまっていた。
なんとなくカカシ先生に会えるのを楽しみにするようになっていた。
ところがある日のこと、同僚が言ったのだった。
「カカシ上忍ってさ、お前のこと好きなんじゃねぇの」
「は?何言ってるんだよ。そんなわけないだろう」
その言葉の馬鹿馬鹿しさに笑いそうになった。
すぐさま否定するが、まったく俺の声が聞こえていないようかのように話は進む。
「あ、俺もそう思った!」
「やっぱり?」
何人かが同意を示す。
「馬鹿馬鹿しい」
「だってお前、考えてもみろよ。いい歳した男が何が楽しくて野郎とお話しするんだよ」
「そうそう。上忍がだぜ?」
「そりゃあ、俺といて楽しいのかなぁとは思うけどさ」
俺自身は楽しいけど、相手がどうかはわからない。
でも、よく話しかけてくるということは、つまらないわけではないと思う。
「絶対そうだって!俺はそういうことに関しては自信がある」
たしかに恋愛感情などに疎い俺よりも周りのいうことが正しいことは多い。
でも、だからといって……
「イルカ先生」
噂をしていた本人が突然現れ、そこにいた全員が焦った。
あんな馬鹿げた話を聞かれてしまっただろうか。
「帰りましょ」
「はい、カカシ先生!」
別に聞かれたからといってどうということもないはずなのに、なぜか心臓がバクバク鳴っていた。
いつもより声を張り上げてしまって不自然だったかな、と思う。
なんとなく後ろめたい。
「ああっ、それじゃあイルカ先生、お疲れさまでした」
「は、はい。お疲れさまです」
その場にいた同僚達にいつもの別れの挨拶をして職員室を出た。



カカシ先生と二人並んで歩く。
いつも家の近くの角まで一緒なのだ。
話が弾むとそこまでの距離がすごく短く感じるのに、今日はいつまでたっても辿り着かない気がした。
同僚達の言葉を信じたわけじゃない。信じたわけじゃないが、気になるのも確かだった。
聞いてみようかと思った。
バカバカしいと笑われるはずだ。
そうすれば同僚に笑われたじゃないかと不満をこぼしてただの笑い話になるはずだ。
よし、そうしよう!
……もし万が一本当だったらどうする?まさか、ね。
そんなことはありえない。大丈夫、大丈夫。
「イルカ先生、どうしました?」
「あっ、あの、カカシ先生は好きな人とかいるんですか?」
うわー、バカバカ。俺のバカ。直球過ぎるだろう。
「え?」
カカシ先生はそのまま黙ってしまった。
不躾すぎたかな、と反省する。いくら親しくなったといっても相手は上忍。失礼に決まってる。
おそるおそるカカシ先生の顔を窺うと、少し戸惑っているのがわかった。
しばらくして
「ええ、いますよ」
と返事が返ってきた。
「なにごとにも真面目で、いつも泣いたり笑ったり。生きることに一生懸命で、すごく可愛い人です!」
そうか、可愛い人か。
やっぱり違ったじゃないか。明日みんなに文句を言ってやらないと。
「そうですか。そんな可愛い人なら会ってみたいなぁ」
俺の言葉を聞いて、カカシ先生が『あれ?』という顔をした。
なんだろう、おかしな事を言ったかな。
「その人はアカデミーで教師をしていて……」
「えっ!俺の知ってる人ですか?」
「……あー、知ってると思いますが」
「へぇ、誰だろう」
カカシ先生の顔がどんどん曇っていく。
もしかして詮索されて不愉快な気分になったのかもしれない。
「すみません。立ち入ったことを聞いてしまって」
「……いえ、気にしないでください」
口ではそういっているけど、気まずい雰囲気が漂っている。
やっぱり聞かなければ良かった、こんなこと。
結局その日は気まずいまま別れてしまった。


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