【ときめきマイッチング☆】後編


カカシは里へ着いたその足で、教えてもらったイルカの担当医療チームのいる病院を訪ねた。
あの隊長はなんとかしてくれると言っていたが、結局明確な治療法は見つかっていないらしく、本来の人格に戻るまで何度もくしゃみさせるしか方法がなかった。
子供が「くちゅん」とくしゃみをすると、華奢な女性の姿に変わる。
さらに驚くカカシに、別人格が異性なのは珍しくないことだ病院側は説明してくれた。人格に制限はないのだそうだ。
担当の話によれば、あと一回のくしゃみでいつものイルカに戻るということだった。だが、そのあと二回続けてくしゃみが出たために凶悪なイルカに逆戻りしたりして、作業はなかなか困難を極めた。
何度もくしゃみを繰り返し、ようやく元に戻ったイルカは、
「もしかして、またご迷惑をおかけしたんでしょうか……」
と申し訳なさそうに眉を顰めた。
謝りながら病院を辞去して家路につく途中、イルカは不安そうにカカシを見上げた。
「俺、くしゃみをするたびに性格が入れ替わっちゃうみたいなんですけど、こんな変なのが恋人だったらやっぱり嫌ですよね……」
「そ、そんなことありませんよ!俺の愛を疑う気ですかっ」
カカシが慌ててそう言うと、イルカは安堵の表情を浮かべる。
「よかった!今まで嫌われるのが怖くて言い出せなかったんです」
などと可愛いことを言い、嬉しそうに笑った。
「どんなイルカ先生だって大好きですよ」
もちろんカカシは心からそう言っていた。


「よぉ、カカシ。最近調子はどうだ」
「イルカ先生ならまだ受付にいなかったわよ」
上忍仲間のアスマや紅に声をかけられ、カカシは足を止めた。
ただ単に呼ばれたのなら立ち止まることもなかったかもしれないが、イルカがいないと聞いて急ぐ必要もなくなってしまったようだ。
「イルカ先生の多重人格は、その後どうなの?」
紅に聞かれ、カカシはぴくっと頬を引きつらせた。
アスマと紅は以前一緒に任務をしたことがあり、くしゃみのことも知っていたと聞いた時は『どうして教えてくれなかったんだ!』とカカシが暴れたのだった。まだそのことを根に持っているらしい。
カカシから不機嫌な空気が漂ってくるのを見て、アスマは『めんどくせぇな』と思いながらも口を開いた。
「まあ、あれだ。イルカも恋人には嫌われたくないから言いたがらなかったわけだから、俺たちが言うわけにも、なぁ?」
同意を求めると、紅もわざとらしいほど大きくうんうんと頷く。
アスマが強調した部分はカカシの心をくすぐったようで、一転してカカシは機嫌がよくなった。
「そうなんだよねぇ」
笑顔全開で、先程渋っていた近況も話す気になったらしい。
カカシは、自分がイルカのくしゃみをコントロールできるようになりたくて、日々努力しているのだという。常に胡椒を持ち歩き、胡椒の量と天候による違いなども研究中とか。
研究成果の数字を並べ立てようとするカカシを、二人は慌てて話題を変えようとする。
「そ、それで、くしゃみは思い通りに出せそうなのか?」
「ああ。イルカ先生の協力もあるから、かなりの確率になってきたよ」
「あら、それじゃあ他の人格と会う機会も多いってこと?」
紅が問いかけると、カカシはさらに嬉しそうに表情を崩した。
「実はイルカとは仲良くなってきたんだ」
「イルカぁ?」
アスマがすっとんきょうな声を出す。
それもそのはず。今までカカシがイルカを呼び捨てにしたことなど記憶にないからだ。
「小さいイルカ先生は『イルカ』で、女のイルカ先生は『イルカちゃん』、強いイルカ先生は『イルカさん』って呼ぶことにしたんだ。みんなイルカ先生だと紛らわしいだろ?」
呼び方はともかく、その嬉々とした態度はなぜなのか。不思議に思い、恐る恐る聞いてみる。
「だってさ、俺はどんなイルカ先生も好きなんだ。だから、どんなイルカ先生からも好かれたいと思うのは当たり前だろ!?それともそれは俺のわがままだっていうのか!?」
肩を掴まれて揺さぶられそうな勢いに、アスマも紅も首を横に振るしかなかった。
凶悪だろうが、分別の付かない子供だろうが、自分を好きになってもらわなければ気が済まない。そのための努力も惜しまない。とカカシは言う。
「まあ、なんていうか……いいんじゃない?その異様なまでの執着がイルカ先生にだけ向いているんだから」
「そうだな。俺たちには関係ない話だ」
ふふふ、ははは、という乾いた笑いがその場に虚しく響き渡った。


日夜、胡椒の研究を続ける男・はたけカカシ。
『写輪眼のカカシは胡椒を持ち歩いている』とビンゴブックの備考にも付け加えられたらしい。
その本当の理由を知るのは、木の葉の中でもごく一部の人間だけということだ。


END
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2004.12.04


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