【夏の思い出】

日記救済御礼
Minaさまリク「夏祭り」


トントントン。トトントン。ピー。
遠くの笛や太鼓の音が風に乗ってかすかに流れてきて、イルカはふと手を止めた。採点に夢中で机に釘付けだった目が周りを見渡すと、もう薄暗くなってきていた。
「今日はお祭りかぁ」
思わず呟いた言葉は、誰もいない職員室に響く。
誰も彼もがそそくさと帰っていくと思ったら、そういうわけだったのか。そういえばナルトが『サクラとサスケと一緒に行くんだってばよ』と張り切っていたのを思い出した。あまりにも嬉しそうだったので、自分も一緒にとは言い出しずらかった。
なんか寂しい、と浮かんできた考えに気づき、慌てて頭を振って追い払う。
何を考えているんだ。一緒に遊びに行く友達ができたことを喜ぶべきじゃないか。
もう帰ろう。こんなところで一人でいるからこんなことを考えるんだ。
イルカはそう思い、勢いよく立ち上がった。
「仕事終わったんですか」
いきなり声をかけられて飛び上がりそうなくらい驚いた。
「カ・・・っ、カカシ先生!」
「はいー」
イルカが息が止まりそうな喉から振り絞って名前を呼べば、飄々とした返事が返ってくる。
「いつからそこに?」
「たった今ですけど」
その答えにイルカはホッと息をついた。
よかった。いくら上忍相手とはいえ、ずっといるのを気づかないなんて無様なことにならなくて。
「イルカ先生、帰りましょ。にしても、今日はなんだか騒がしいですねぇ」
「お祭りですから」
「ああ、お祭りね」
カカシの微妙な反応が気になり、興味がないのなら誘わない方がいいのだろうかとイルカは迷ったが、せっかくの夏祭りだしと思い切って言ってみることにした。
「帰る前に寄っていきませんか?」
カカシはいつもの眠そうな目を見開いた後、少し嬉しそうに頷いた。そして、言いにくそうに切り出した。
「あー、実は祭りって行ったことないんですよね」
「一度もですか!?」
「そです。なんか暇がなくてねー」
いつも任務ばっかり、とおどけて言うカカシにイルカは胸が詰まった。
小さい子供の頃から任務任務で、お祭りを楽しんだこともないなんて。
しかし、そんなことを考えているとカカシに悟られるわけにはいかなかった。例えぼんやりと感じられていたとしても。
当人でもない人間が簡単に哀れんだり気持ちを理解しようとするのは、カカシにとって楽しいこととは限らないだろうから。
イルカはそう自分に言い聞かせて、できるだけ明るく振る舞おうとした。
「じゃあ、お祭りの案内は俺に任せておいてください!」
元気よく胸を叩いて請け負うと、カカシは
「わー。イルカ先生、頼もしいー」
と顔を輝かせて喜んだ。
「早く行きましょう行きましょう」
イルカの手を掴むと、ぐいぐいと引っぱっていこうとする。
その子供のようなはしゃぎようを見て、イルカは苦笑しながら歩き出したのだった。


金魚すくいも駄目、射的も駄目、綿菓子なんて食べるはずもない。
イルカは少し焦っていた。
子供の頃楽しかったお祭りのイベントは、大人になった上忍を喜ばせるほどのものではないと気づいたのは、出店を見始めてからすぐのことだった。
チャクラを練ればほとんどのことが簡単にできてしまう面白味のないゲームばかりだ。子供の頃は真剣そのものだったのを思い出してほろ苦い思いが去来したりもするのだが、今はそれにかまっている暇はない。カカシは焼きとうもろこしを囓り、周りをキョロキョロと見回しながらおとなしくついてくるけれど、案内すると言った手前イルカは困っていた。
ふとイルカが違和感を感じて振り返ると、カカシが立ち止まってじっと何かを見ている。
何を見ているのだろうと今来た道を引き返すと、どうやら飴細工のようだった。
「あれ、何ですか?」
「飴細工です。見るのは初めてですか?」
「はい」
箱から熱い飴をぐいっと伸ばして取り出し、筆で食用絵の具をちょんとつけて丸められる。ぱちんぱちんとハサミで切り、鮮やかに手が動いていくのに見とれているうちに、いつのまにか飴が望む形に出来上がっていくのは、まるで魔法のようだ。


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