【南の島に咲く花は】前編

G.Sさまへ捧げます。
※『君よ知るや南の島』『南の島の波の音』の続編です。

満天の空の下。
「イルカ先生ー。あの星はなんていう星?」
「あれとあれを繋げたらうみへび座なんだって!」
「あっちとあっちじゃないのぉ?」
子供たちの声が飛び交う。
今日は天体観測をすると言って、学校の子供たちを夜集まるよう呼びかけた。もちろん親御さんのたちの許可は事前に取ってある。
『星なんていつも見てるよ』と最初は興味がなさそうだった子供たちも、イルカが星座や宇宙の話を始めると、しんと静かになって真剣に耳を傾けた。話の後は銘々が自分の思うままに星を眺めることとなった。
そのおかげで、静かな空の下のはずが少々賑やかすぎるほどだ。
俺の側にはちょうどナルトとサスケとサクラがいて、仲良く星を見ていた。
「星っていうのは何万光年も遠くにあるから、今あそこに本当に星が存在しているとは限らないんだ。もうなくなってしまった星の光が今ここに届いてるかもしれないんだーよ」
「ええっ、そうなのか!?」
「不思議だろ」
「すっげぇ!」
ナルトはしきりに感心している。目を輝かせている姿を見るのが楽しくて、俺の知っていることをできるだけわかりやすく教えてやった。
単純明快なナルトは星空を大変お気に召したらしい。
「俺、俺。将来テンモンガクシャになるってばよ!」
その声は少し離れていた人間にまで聞こえるくらい大きくて、聞きつけたイルカが寄ってきた。
「ナルト、頑張って」
「任せとけ!」
自信満々に請け負う調子の良いナルトだが、根性だけは人一倍なのでもしかして叶えてしまうかもしれないと密かに思う。
「サスケは何になりたい?」
隣に座るサスケにイルカがそう尋ねると、普段は無口な子供が意外にも口を開いた。
「俺は何になるかなんて決めてないけど……環境保護のために生態学を学びたい」
「へぇ」
「サスケならきっとイイ学者さんになれるヨ」
イルカが励ますと、サスケは照れたのを誤魔化すようにそっぽを向いてしまった。
サクラは?と促すと、
「私は医者になろうと思うの」
と明るく答えた。
「それは素晴らしいネ」
「だって、必要だと思うから。医者がいないんだもの、この島には。いっぱい勉強して本島の大学へ行って、医師免許を取ったら帰ってくるわ」
きっとサクラなら立派な医者になって帰ってくるだろう。頭のよい子だから。
しかしそうなると、大学へ行くために高校程度の学力をつけなくてはならない。この島で教えられるのは、どんなに頑張ってもせいぜい小・中学校程度。何年か後には、三人とも本島へと渡ることになるだろう。
「そうか。三人とも島からいなくなると寂しくなるな」
俺はなにげなく言うと、イルカは不安げに瞳を揺らした。
子供たちは気づいていない。ナルトなどはサスケを小突いてうるさがられているくらいだ。
どうしたのかと心配になった。けれど、子供たちの前で無理矢理聞き出すわけにもいかない。
「イルカ先生、カカシ先生。楽しみにしてて」
「もちろん。期待してるよ」
頭を撫でてやると嬉しそうに笑って、他の子供たちの元へと駆けていった。
しかし、俺はイルカのさっきの表情が気になって、それどころではなくなってしまった。もう課外授業にも身が入らない。
ようやく解散となった後に、イルカを捕まえて名前を呼ぶ。
「イルカ? どうしたの?」
なんでもないというように首を振るが、とてもそうは見えない。
しつこく聞き出そうとすると、俯いたままぽつりと呟いた。
「三人とも帰ってこない……かもしれない」
一度島を出たら戻ってこないかも、とイルカは顔をくしゃりと歪めた。
ああ、そうか。
やっと理解した。
以前言っていたではないか、島へ来た研究者は戻ってくると言って戻ってこなかったと。
きっと不安なのだ。戻ってこなかったらどうしようと思ってる。
「大丈夫だよ。俺だってちゃんと戻ってきたでしょ? 必ず帰ってくるよ。心配しないで」
これは根拠のない慰めじゃない。
島生まれは島の暮らしが一番落ち着くらしい。統計的にもこのあたりの島出身者はたとえ外へ出て行っても帰ってくる確率が高い。
だから大丈夫だよと根気強く言い続けた。
「それにね。あの子達はイルカが大好きなんだよ。イルカの住むこの島に帰ってこないわけないって」
そう言うと、イルカはようやく少しだけ頬を緩めて笑ってくれたのでホッとした。


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2006.01.14


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