【落としものには福がある3】


扉の前に呆然と立ち尽くす。
しがないアカデミー教師を閉じこめる理由なんて上忍にはない。そんな馬鹿な話があってたまるか。
もしかしてあのカカシ先生は実は偽者で、ここは木ノ葉じゃないとか?
その可能性を考えて血の気が引いた。
起き抜けでぼんやりしていたが、そうだったんだろうか。
もっとよく考えて慎重に行動すべきだったと後悔する。
何かヒントになるものがなかったかどうか、真剣に考えた。けれど、不自然なところはなかったように思う。
よほどの熟練者でなければ本人になるきるには無理があるだろう。いくらなんでも俺にだって偽者かそうでないかくらいは区別がつくはず。
しかし現実問題としては俺はここから出ることはできない。力ずくで結界を破るのは不可能なのだ。
どうしたらいいんだろう。思考は堂々巡りだ。
現状を打破するには相手の出方を見て考えるしかないという結論に達し、そうと決まればいつでも動けるようにと休息を取ることにした。


玄関の鍵を開ける微かな音で目が覚めた。
寝起きで今の状況を把握できず一瞬首を傾げたが、はっと思い出して気を引き締める。
わしゃわしゃという音が近づいてきて、あの音はどこかで聞いたことがあると思った。
何だったかを思い出そうとする前に、スーパーの買い物袋を持ったカカシ先生の姿が目に飛び込んできた。
急いで帰ってきたのは息が少し切れていたのですぐに分かった。
上忍の息が切れるくらいってどれだけ超特急で帰ってきたんだろう。相当無理したんじゃないだろうか。
「あ。起こしちゃいましたか」
申し訳なさそうに謝られ、慌てて首を横に振った。
実際起きたのは事実なのに、反射的に否定してしまった。敵かもしれないから警戒してとかそういうこと以前に、なんとなく人間ってそういうものだ。
買い物袋は大漁、いや大量で。なんだろう、とつい注視してみる。
「イルカ先生、食欲ありそうだったからいろいろ作ろうかと思って」
なんと、すべて食料だった。
俺の感覚からすればどう見ても十日分はありそうな量だが、カカシ先生の感覚では違ったらしい。
「すぐに用意しますからね」
「あ、あのっ……」
嬉々として台所へと去っていくカカシ先生を引き止めることは出来なかった。
今まさに料理に夢中という感じ。
あれが人を騙そうとしている態度だろうか。
なんか違う。そういう敵意は欠片も感じられない。
閉じこめられたというのは俺の勘違いだったのかもしれないと思い始めた。
カカシ先生が言っていたじゃないか、怪我した時に使う家って。その時の結界がまだ残っていたのかもしれない。
ああ、そうだよ。人が侵入したりしないよう家を守ってあったんだ、きっと。
それを勘違いして俺は恥ずかしい。
だいたい俺なんかを騙しても重要な情報なんか手に入らないし、何の得もないのだから。はっきりいって自意識過剰だ。
結論に達してすっきりした。
それと同時に、台所からは鼻を擽るいい匂いが漂ってくる。
また美味しいものが食べられるかと思うと、涎が出そうになった。
手当てをしてもらった上にあんなに美味しいものをわざわざ作ってくれるのに、俺は疑ったりしてすごく失礼な人間だったと思う。
反省しようとしていたまさにその時、カカシ先生の声が近づいてくる。
「できましたよー」
どんどん運ばれてくる料理に驚いて、反省する暇もなかった。


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2008.03.08


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