【落としものには福がある4】


出てきたのはお膳に溢れんばかりに載っている料理の数々だった。
なんだこれ。
それを呆然と見つめる。
まるで料亭のような凝った料理ばかり。刺身の盛り合わせ、焼き魚に分厚いステーキ、煮物の野菜は飾り切りまでしてある。器の善し悪しなんてわからないが、なんだか高そうだということは俺にも理解できる。
「あの、これ……」
「たくさん食べてくださいね」
カカシ先生は笑って勧めてくれるが。
いや、美味しそうなんだ本当に。飾り付けにも凝ってるし。でもこれを気軽に食べてもいいものか。
「あ。もしかして嫌いなもの入ってました?」
カカシ先生の言動は普通で、つまりこの料理もカカシ先生にとっては普通ということだ。
上忍ともなるとこれがあたりまえなんだ。
ちょっとショックだった、あまりの違いに。
「いえ! すごく美味しそうです。……でも普段食べ慣れないようなものばかりで緊張しちゃって。俺はいつも庶民的なものしか食べてないので。すみません」
思いきってそう言うと、カカシ先生の顔色が変わった。
ああ、余計なことを言って怒らせてしまった。
馬鹿だ、俺は。せっかく親切にしてもらったのに。
「そうですよね……でも家庭料理はなかなかコピーする機会がなくて……」
「は? コピー?」
コピーするって何。
え、まさか写輪眼でってことなのか!?
「あの、それじゃあ、もしかしてこの料理は……」
「全部写輪眼でコピーしたんですよ。ほら、大通りを一本入ったところに花月亭ってあるでしょう。あそこの厨房で……あ、邑乃屋の方が好きでした?」
花月亭も邑乃屋も食べたこともなければ門をくぐったことさえない。中忍の薄給では縁がないのだ。
いや、問題はそんなことではなく。
料理のために写輪眼を使うという行為はどうなんだろう。上忍の間では普通のことなんだろうか。
いくらなんでもそんなことはないはずだ。
つまりカカシ先生はけっこう常識はずれということだ。すました顔をして、やることはとんでもなかったりする。
なんかついていてあげないと心配な人だとちょっと思った。
そんな失礼なことを考えながら、俺はせっかくなので写輪眼を駆使して作られた料亭の味を堪能することにした。
それはもう美味しくて、あんなにあった料理がすぐになくなってしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
お粗末どころか滅多に食べられない豪勢さだったが、カカシ先生は律儀にお決まりの台詞を口にする。
「すごく美味しくて食べ過ぎました」
「元気になるには栄養摂るのが一番ですから。食べ過ぎぐらいがちょうどいいですよ」
ちょっと常識はずれだけど、優しい人だなぁ。
お世話にもなったし、お礼をどーんと奮発しないといけないな。
そこまで考えてはっとなった。
そうだ、もうこれ以上お世話になるわけにはいかない。今日一日、充分休ませてもらったから明日から仕事に行かないと。
カカシ先生にお礼を言い、この家を辞することを伝えると、
「もっと居ていいんですよ!」
と止められた。
お世辞ではなく本気で言ってくれているんだ。その気持ちはとても嬉しいけれど、心苦しい。
「でも仕事もあるし……」
「あ。それは、今日報告したらしばらく休むようにってことでしたよ」
「え、そうなんですか?」
休暇が貰えるとは思ってなかったので驚いた。
内勤が多いと、よほどの怪我でない限り多少は無理をして出勤して仕事をしているうちに怪我を治す、という傾向がある。
だいたい休めば休むほど後々業務に支障があるのは確実なので、本人も心得ているのだ。
それにアカデミーの授業なんかはなかなか代わりがいない。一日や二日ならともかく、休んでいる暇はないものだと思っていた。
でも上忍のカカシ先生が報告に行ったことで上も考慮してくれたのかもしれない。幸運だった。
自分へのご褒美と思って、休みの間ありがたくカカシ先生の厚意に甘えることにした。カカシ先生も喜んでくれて俺も嬉しくなった。
しかし、ただ家でのんびりしているのは勿体ないので、やれることはやっておきたい。
「カカシ先生。あの……図々しいお願いですが、アカデミーに置いてある書類を取ってきてもらいたいんです」
「え。ああ……そうですね。どんなのですか?」
笑顔はそのままだったが、答えには一瞬の間があった。
あれ?と思う。
今のは不自然だった。
なんでだろうと疑問が湧き上がってきた。


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2008.03.15


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