【カケラに咲く花・前編】

一周年記念リクエスト大会
唐麿さまリク「痛みを感じないイルカ先生」


最初にその人を見たのは、たしかナルトがアカデミーを入学した頃だったと思う。
九尾の器になっているナルトがアカデミーに入ったというのは、暗部ですら話題の的で、その担任の話も自然とよく耳にした。
同僚に「あれが例の教師だぜ」と教えられた先にいたのが、うみのイルカその人だった。
四六時中笑っている姿を見て、ナルトもなかなか運がいいと思った。
二人が一緒にいるところは子猫が二匹じゃれているように見えたからだ。そんな風に接してくれる人間は、この木の葉の里では少ない。
ただ、なんとなく違和感を感じた。
それは微かなものだったので、遠目に見ていることもあって、その時は忘れてしまった。


それから何年か経った今、俺はナルト達の担当上官となった。
元担任とは受付によくいることもあって、何度か顔を会わせたが、いつも笑っていたと思う。
やはりそれは違和感を感じさせ、落ち着かない気分にさせられた。
「イルカ先生ってさー、あんま笑わないよなー」
任務の帰りに、ふとナルトが漏らした言葉。
「何言ってんの、 バカナルト。イルカ先生はいつも笑ってるじゃない」
「サクラちゃん、ひどい…。そうじゃなくてさ、あれはホントに笑いたくて笑ってるわけじゃないだろ?」
「なに言ってるか分かんないわ」
サクラには理解できないようだったが、俺にはその意味がよく分かった。
『本当に笑いたくて笑ってるわけじゃない』
そうだ。
違和感を感じたのは、だからだったのだ。
あれはただの仮面だ。笑顔の仮面。
柔らかい笑顔に隠された固くて大きな壁。
うまくあしらわれて、誰も心の中には入れない。
「へへ、でもさ。ちゃんと笑ってくれたときは、すっげぇ嬉しいんだってば!」
つまり、ナルトの前では心をさらけ出して笑うこともあるということだ。
その事実は何故か悔しく、羨ましかった。
服の中に乾いた松葉が入り込んだように、チクチクと苛む。
どうしてそんな風に思うのか、その時はわからなかった。


ちょうどアカデミー生用の演習場で、イルカ先生とアカデミーの子供達が何かを実習中のようだった。
なんとなくじっと眺めていると、子供が足を滑らせた。
「あっ」
バランスを崩した子供を支えようと腕を伸ばし、軽い錯乱状態の子供に予想外にしがみつかれて、自分もバランスを崩した。
運悪く庇ったところに枯れ枝が伸びていて、腕をざっくりやってしまったらしい。遠目にもかなり血が出ているとわかる。
止血もろくにせず、火がついたように泣き出す子供を宥めるのに懸命な姿を見て、放ってはおけなかった。
「イルカ先生。とりあえず子供は放っておいて、怪我をなんとかしないと」
近づいて声をかけると、気配に気づいていなかったのか驚かれた。
「待ってて。今医療班を呼ぶから」
子供などしばらく泣かせておいても支障はない。
むしろ泣くぐらい元気なら問題ないではないか。
そう思ったのだが。
「大丈夫です。痛くありませんから」
平然と答えられた。
「え?」
「痛くないから、止血して、後から病院に行けば充分ですよ」
痛くないはずはない。
これだけ多量の血が出るほどの傷なのだ。
いくら忍びとはいえ、薬などを使わない限り痛みを消すことなどできないはずだが。
子供の前だから気をつかって嘘を言い張っている風でもない。
たしかに表情から見て、痛いと思っているわけではないのはわかる。
しかしだからといって、痛みを感じなければ流れ出る血が止まるわけでもあるまいに。
「痛くないからと甘く見てると、後で大変な目に会いますよ。子供は後回しで止血しなさい。上忍命令です」
「はい」
命令と言われ素直に従う姿を見て、止血するのが命令だなんて初めてだと思った。
胸がざわめいてしかたがなかった。


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