【ボディブローの恋2】

俺の勘もなかなかのものだと思う。
やはり、第一印象は間違ってはいなかった。
真面目そうな黒髪のその人は、側にいるのが心地よくて心が落ち着く。
イルカ先生は話しやすくてしゃべっていても楽しいし、馬鹿な連中のように俺をイライラさせることを言ったりしない。
たまに、同じ言葉をしゃべっているはずなのに、どうしてこんなに話が通じないのだろうという人間がいるけれど、それはやはり価値観が全く違うからだろう。
イルカ先生とはその違いが全くない上に、沈黙していても気まずくはなることはない。それはそれで心穏やかに過ごせるのだ。
一緒に飲みに行くのも楽しかった。
見た目によらず結構イケる口で、自分でもかなり飲めると思っているこの俺のペースと同じぐらいなのもいい。
嫌いだと思い込んでいたピーマンの串焼きを勧められ、「美味しいですよ」という笑顔に断り切れずに食べると、意外と美味しいことを知った。
ただ何故か、他の連中と飲みに行ったときに食べようとすると、やっぱり不味くて食べられなかったのはどうしてだろう。イルカ先生と一緒だと美味しいと思うのに。あれはすごく不思議だ。
毎日が新しい発見と懐かしいような日常だった。
「カカシ先生、任務がんばってくださいね」
受付所で声をかけられ、にこりと笑われたら、朝からがんばってみようかなと思ったりする。
なんだかその言葉からジワジワと伝わる力が、その日一日の活力だったり。
帰ったら「お疲れさまでした」と言われるのを楽しみに、張り切ってみたり。
こんな風な友達というのは初めてで、誰かに自慢したいような気分になったんだ。


「最近、中忍の先生とよく一緒にいるんだって?」
どちらかといえば『悪友』というしかない付き合いの、猿飛アスマがそう聞いてきた。
「俺さ、イルカ先生と友達になったんだ!」
つい嬉しくなって、自慢げに言った。
「へぇ、オトモダチねぇ」
からかうような口調にムッとした。
俺は真剣なのに。
「なんだよ」
「いーや、別に」
「イルカ先生はなぁ。お前らと違って一日一回は会わないと寂しいし、ずっと一緒にいたいという気になるんだ」
「なるほど、かまってもらいたいわけだ」
かまってもらいたい。
確かにそれは自分の心情を的確に表現している気がする。
もっと仲良くなりたい。
一緒にいたい。
今の自分はそう望んでいるのだ。
自分自身のことをできるだけ客観的に考えようとしていたときに、イルカ先生の姿が見えた。
あ、仕事が終わったんだ。
一緒に帰ろう。
と誘おうと思ったら、その後ろから追いかけてきて声をかける人物がいた。
あれはたしか中忍の……名前は知らないけれど、顔に見覚えがある。
なぜなら、イルカ先生と一緒にいる時たまに視線を感じて振り向くと、必ずそこにいた女だからだ。
なんの用だろう。
少し距離は離れているけど、上忍の聴力をもってすれば聞き耳を立てるというレベルですらない。自然会話は聞こえてくるのは仕方がないことだ。
しかし、そのとき耳に飛び込んできた言葉は。
「ずっと前からイルカ先生が好きでした。私と付き合ってください、お願いします!」
「えっ、あの……」
「返事は今じゃなくていいですから!」
ガーッとまくし立て、顔を真っ赤にさせた女性は走り去っていった。
イルカ先生は一人残され、呼び止めようとした手を上げたまま固まっていた。
しばらく呆然と立ち尽くした後はっと我に返り、辺りに誰も居なかったか確認して立ち去った。
ちょうど俺達のことは木の影に隠れて見えなかったようだ。
俺自身もなぜか呆然とそれを見送ってしまった。
「あーあ、残念だったなカカシ。これからイルカ先生にかまってもらえなくなって」
とアスマが意味ありげに言った。
その意味がよくわからなかった。うまく頭が回らない。
「え、なんで?」
「なんでって……あのくノ一と付き合うようになったら、お前と遊ぶ暇なんて無くなるからだろ」
「えっ、嘘!」
「嘘なもんか。友達と恋人じゃあ格が違うだろ」
アスマの口から出た言葉に衝撃を受けた。
恋人ができたら、もうかまってもらえない。
友達よりも恋人と一緒に時を過ごす。
当たり前といえば当たり前の理屈だったが、ショックだった。
これからはずっと一緒にいられない。
恋人がいるから俺なんかとはいられないんだ。
そんなのは嫌だ。
いつもの楽しい時間も、優しく笑うあの笑顔も、全部失ってしまうなんて。
だったら、俺がイルカ先生の恋人になれば一緒にいられる?
その考えはすごく魅力的だった。
「じゃあ俺、イルカ先生の恋人になる!」
俺は高らかに宣言したのだった。


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2003.02.08


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