【君にムチュウ】

一周年記念リクエスト大会
Minaさまリク「モテモテイルカ先生をかっさらうカカシ先生(鳶に油揚げをさらわれる)」


その日の任務受付所はごった返していた。
なぜなら、今日は『うみのイルカ』が受付当番だからだ。
いつも笑顔で「頑張ってください」「お疲れさまです」と声をかけられるのを楽しみにしていない人間など、この木の葉の里にはいない。
みんな大好きなイルカ先生。
けれどみんな大好きなゆえに、親しくなろうとすることさえなかなかできないのも事実だった。
そんな度胸のある人間は、わずか一握りの人間だ。しかも実力のある者たちばかり。ほとんどの人間が『今日は顔を見られてラッキーだった』程度なのだ。
アカデミーにいてはなかなか顔を見ることすら難しいため、受付当番の日に人がこれでもかと集まってくるのは仕方のないことだろう。
そんな受付業務もそろそろ終わりに差し掛かった頃、意外な人物がやってきた。
「イルカ先生」
声をかけてきたのは、日向ヒアシだった。
「あ、日向さん。お久しぶりです」
日向家の当主がこんな受付所に顔を出すのは珍しい。
けれどイルカはにこりと笑って挨拶をした。特に疑問を感じないようだった。
「今日はどうされましたか?」
「実はイルカ先生に相談があってな」
「相談ですか?」
「今度ハナビをアカデミーに入れようかと思っているのだが」
「ハナビちゃんをですか?まだ小さいのでは?」
「うむ。そうは思ったが、最近めきめき力を付けていてね。やはり先生方にきちんと教えを乞うのが一番だと思う」
「そうですか!では来年度からぜひ」
「娘をよろしく頼む」
どさくさに紛れて、ヒアシにぎゅむと手を握りしめられた。
あっ。子供をダシにして卑怯な!
そんな声が周囲でひそひそと囁かれた。
けれど、まさかそんな意味で握られているとも気づかずに
「はい。おまかせください」
と、にこやかに手を握り返すイルカ。
「それで、詳しい話は二人で食事でもしながらどうだろうか」
手を握ったばかりか食事に誘う。明らかに計画的犯行だ。
許すまじ、日向家当主。
周りの痛いほどの視線をものともせずに、己の望みのままに突き進むのはさすが日向の当主と言うべきか。
しかしそれも長くは続かなかった。
「それなら私もご一緒したいわー。ヒナタも交えて皆で行った方が楽しいでしょう?」
紅がいかにも担当教官らしく口を挟んできた。
表情に変化はないものの、余計なことをと言わんばかりのチャクラが当主から滲み出ていた。
痛いまでのチャクラを無視して、話は進む。
そのうえ、ちょうど報告にやってきたアスマまで話に割り込んできた。
「それをいうなら、うちの班の奴らだってイルカに会いたがってるぞ。今日は10班全員と焼き肉に行かないか」
「えっ。でも……」
イルカは言い淀んだ。三人を交互に見渡している。
そこにまた新たな声が掛かった。
「駄目じゃ」
隣の席に座っていた火影が口を開いたのだ。
「三代目。何の権利があってそんなことをおっしゃるのですか。いくら火影様といえど、できることとできないことがあります」
ヒアシが突っぱねようとするが、里長は怯まなかった。
「イルカや。今日は木の葉丸と3人でカニを食いにいかんか」
「は?」
「卒業生と次期新入生よりも、在校生の木の葉丸とその家族との交流の方が優先されると思わんか」
そりゃ、屁理屈ですよ三代目。
その場にいた全員がそう思った。
しかし本人は至って真剣としか見えない。
「はぁ、しかし……」
イルカは戸惑い、どうしようかと迷っているようだった。
ヒアシは三代目を睨み、それに上忍二人も加わって四竦み状態。
イルカ先生と夕飯を食べる権利を勝ち取るために、今まさに戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
ここで始まってしまえば、受付所が崩壊するのは目に見えている。
全員が戦々恐々としていた。


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