【星に願いを】


『イルカ先生が任務に出たまま行方不明になった』
そう聞いたのは、帰ってくる予定を過ぎた次の日。
どうして。
簡単な任務だったはずだ。
ただ巻物を届けるだけだと聞いていた。
少し遠出になるけれど、危険はないというから見送ったのに。
こんなことならついていけばよかった。
『大丈夫ですから』
笑ってそんな嘘をついたあなたについていけばよかった。


+++

『イルカ先生が行方不明だ』という噂はたちまち里中に広まっていた。
普通ならば抜け忍かと疑われたりもするものだが、そんなことを言う人間は一人もいなかった。
誰もが心配して、ただ無事であることを願っていた。


「イルカ先生が帰ってこないんだ、サクラちゃん。どうしたらいいんだろ」
誰の目から見ても一番意気消沈していたのはナルトだった。
今にも泣きだしそうな表情で呟く。
サクラだとて心配している自分の心を押し隠して、なんとか慰めようとしていた。
「きっと大丈夫よ。そうだ!自分の好きなものを断って願い続けると願いごとが叶うっていうわ」
その言葉に力づけられたのか、ナルトが顔を上げた。
「俺、俺っ…ラーメン断ちする!」
「えっ。ナルトにできるの?」
「だって、だってラーメンは大好きだけど、それよりもイルカ先生の方が大事だってば!」
「そうね」
そんな二人の会話を耳にしながら、ぼんやりとあなたのことを想う。


何か大好きなものを断って願いごとをすると叶うという。
では、大好きなあなたの無事を願うには何を断てばいいの?
好きなものはあなたしかいないのに。
願いごとをしたくても他に好きなものがないんだ。


+++

一週間経っても、あなたは帰ってこない。
誰もが心配で苛立っている。
たまに涙を浮かべる者すらいた。
俺は泣かなかった。
いや、泣くことは出来なかった。
だって泣いたら。
泣いてしまったら、もう決して無事には帰ってこない気がして。
泣いた時点でなにか取り返しのつかないことになる気がして。
どうしても泣くことはしたくなかった。
大丈夫、大丈夫。
何度そう唱えればあなたは無事だと信じることができるのだろうか。


「カカシ」
「よう、アスマ」
「飯食ってるか、お前」
「腹空かないんだ」
「ちゃんと食え」
「ちょっと食べる気しないだけだーよ」
笑って答えれば、それ以上は何も言ってこなかった。
何を食べてもまるで砂を噛むようで。
何かを食べたいという欲求すらなくなった。
今はただあなたの声が聞きたいだけ。
それだけが俺の唯一の願いごと。
大地に立ち尽くし、夜空を見上げると、まるで吸い込まれてしまう錯覚に陥る。
それほどまでに満天の星。
きれいな天の川。
この、目に見える数え切れないほどのすべての星が、俺のたった一つの願いを聞いてくれたら。
そうすればどんな無理な願いも叶う気がした。
星に力があるというのなら、俺の願いを叶えてよ。


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